ITインフラの構築・運用を手掛ける米Kyndryl（キンドリル）の日本法人キンドリルジャパンは、向こう数年で約150億円を投じ、自社データセンター（DC）の整備や、ユーザー企業のITインフラ刷新の支援体制を増強する。同社は日本IBMから引き継いだ複数のDCを運用しているが、中には開設から30年経過している古い設備もある。DCで預かっているユーザー企業のITインフラの刷新と歩調を合わせるかたちで、東日本と西日本に計4カ所置く最新鋭のDCに集約していく。最新DCではシステム運用の自動化を行う「Kyndryl Bridge（キンドリルブリッジ）」を標準装備し、運用の高度化を推し進めていく方針だ。
（安藤章司）
 
　DCの刷新に当たっては災害に強い大規模DCと、「Amazon Web Services」などのパブリッククラウドとの接続性に優れたDCを組み合わせたものを東日本と西日本に1セットずつ、計四つのDCに集約していく。西日本はすでに整備済みで、東日本は近く大規模DCを本稼働させる（図参照）。老朽化したDCを利用しているユーザーには、システム運用基盤のKyndryl Bridgeを使ったITインフラの近代化プロジェクトを提案するとともに、「最新DCの設備に移転、またはパブリッククラウドを活用してもらうよう働きかけていく」（上坂貴志社長）。
 

　DC刷新の背景には、生成AIに代表される大電力を消費するアプリケーションが増えており、電力供給能力を向上させたDCを整備する必要に迫られたことだけでなく、世界共通で使えるKyndryl Bridgeを標準装備することでシステム運用の高度な自動化を実現する狙いがある。Kyndryl Bridgeは世界で500社余りのユーザー企業が活用しており、システム運用に必要なデータをAIで分析した知見や、ハードウェアやソフトウェアの修正パッチの情報、サポート期限の管理を自動化できる。

　上坂社長は「スマートフォンやPCでは、修正パッチやセキュリティパッチがオンラインで自動更新されているが、それと似た仕組みをKyndryl BridgeによってITインフラ領域に応用していく」と話す。Kyndryl Bridgeのユーザーが増えれば増えるほど世界規模でシステム運用の標準化が進み、運用の効率化が図れるため、Kyndrylはグループ全体で本年度（2024年3月期）末までに足元の利用者数の2倍に相当する1000社に使ってもらうことを目標に据えている。

　ユーザーの売り上げや利益に直結するアプリやサービスの開発と、ITインフラの保守、運用に関わる業務の二つに分けた場合、後者は非競争領域であり、標準化や自動化によって効率化すべき領域だとキンドリルジャパンは位置付けている。10月2日には、キンドリルジャパンやIDホールディングス、ユーザーなど計7社で「次世代システム運用コンソーシアム」を共同で立ち上げ、システム運用に関する技術や知見を持ち寄り、次世代のシステム運用の在り方を導き出す活動をスタートしている。

　次世代システム運用の方向性について、上坂社長は「事業を継続していく上で、ユーザーとシステム運用を担うITベンダーがともに考え、協力する新しい形態へと発展するもの」と捉え、ユーザーとベンダーが協業する“エコ・パートナーシステム”を重視していく。