週刊BCNは9月20日、名古屋市内で地場のSIerやIT製品販売会社を対象にしたセミナー「週刊BCN 全国キャラバン2024 in 名古屋」を開催した。IT運用管理、IT資産管理、ERP、セキュリティー、アプリケーション管理の各製品を提供する5社が自社の製品・サービスを紹介したほか、東海地方のSIビジネスをテーマにしたセッションが設けられた。
「一人情シス」が抱える運用の悩みを解決
ゾーホージャパンのManageEngineマーケティング部の齋藤愛理・コンテンツクリエイター/エバンジェリストは、同社が提供するIT運用管理支援ソリューション「ManageEngine」が、企業の情報システム担当者の悩みをどのように解決できるかを解説した。ManageEngineはネットワークや端末、ログなどを管理するさまざまな機能をコンポーネントごとに用意しており、組織のIT運用で発生するさまざまな業務負荷を解消できる製品となっている。
ゾーホージャパン
齋藤愛理
エバンジェリスト
「一人情シス」といった言葉がしばしば聞かれるように、ITを本業としない中堅・中小企業では、少人数の情報システム担当者が機器の不調からパスワード再発行、システムの使い方の指南まで、“何でも屋さん”になって問題を解決しなければならない現状がある。齋藤エバンジェリストは、「ITの見える化によって情報システム担当者の業務効率化とセキュリティー向上を実現できる」と話し、社内のIT機器やアプリケーションに加えて、情報システム部門への問い合わせ状況などを可視化することを提案。それまでIT運用管理を手作業で行っていた企業が、ManageEngineの導入で大幅な効率化を果たした事例などを紹介し、可視化によって運用業務の課題を明らかにすることの重要性を訴えた。
セキュリティー対策の第一歩としてのIT資産管理
IT資産管理ツール「SS1」シリーズを提供するディー・オー・エスの営業企画部の山本桂・課長は、企業に求められるセキュリティー要件が厳しくなる中、セキュリティー強化の第一歩としてIT資産の着実な特定を進めることを推奨した。ここ数年、自動車業界の大手メーカーや業界団体がセキュリティーガイドラインを策定するなど、製造業の世界でもサイバーリスクへの備えを高めようとする動きが活発化しているが、サプライチェーン上の中小企業などでは、IT資産管理が適切に行われていないケースがまだまだあるという。
ディー・オー・エス
山本 桂
課長
山本課長は「資産管理業務がシステム化されていない企業や、資産管理ツールを入れていても『Excel』で台帳を作っている企業などでは、セキュリティー運用に抜け漏れが発生している可能性がある」と指摘。近年多くの企業が導入に向かっているゼロトラストのモデルにおいても、資産の特定は最初に行うべきステップに位置付けられており、同社のSS1も、運用管理の効率化だけでなくセキュリティー強化の提案としてユーザー企業に受け入れられる可能性が高いと説明。SS1はオンプレミス、クラウドの両製品を用意しており、企業のポリシーやシステム構成を問わず幅広いユーザーに導入しやすい製品になっていると強調した。
業務効率化とデータ活用を同時に推進するERP
ERP製品「GRANDIT」を提供するGRANDITの事業統括本部営業統括部の伊藤篤志・主任は、現在のビジネス環境においてなぜERPが求められるのかを解説した。販売管理、製造管理、人事給与、会計といった、企業の各部門で利用されるシステムが個別に導入されている場合、企業活動上のデータが各システムに分散し、顧客や商品に関する情報の追加や変更に時間がかかったり、二重入力の手間やミスといった問題が発生したりする。それらのシステムが統合されているERPのメリットとして、伊藤主任は「業務効率を高めるともに、企業の情報を整理しながら収集できる」ことを挙げ、業務の省力化・合理化とデータ活用を同時に進められる点を強調した。
GRANDIT
伊藤篤志
主任
同社では20年にわたる実績のあるGRANDITに加えて、クラウド版の「GRANDIT miraimil」も提供している。クラウド基盤として「Microsoft Azure」を採用しており、「Azure OpenAI Service」の生成AI技術を活用し、経営判断に必要なデータを対話形式で得られる機能の試行も行っている。また、製造業向けのクラウド型生産管理システムとして実績のあるシナプスイノベーションの「UM SaaS Cloud」と連携したサービスも行うなど、業種ごとの課題によりフォーカスした展開にも力を入れているという。
既存の製品では防げない標的型攻撃の脅威を可視化
脅威ハンティングツール「ThreatSonar」を提供する台湾TeamT5(チームティーファイブ)日本法人の横田智成・シニアセールスエンジニアは、自社のシステムに攻撃者が潜んでいないかを調査する侵害評価の必要性について説明した。多くの企業が導入しているアンチウイルスソフトやEDR(Endpoint Detection and Response)製品は、既知の脅威が入り込むのを防いだり、防御をすり抜けたマルウェアの起動を検知したりすることが可能だが、特定の企業をねらった標的型攻撃の場合、潜入から活動開始までの時間が長期にわたることが多く、それらの製品で発見するのが難しい。
TeamT5
横田智成
シニアセールスエンジニア
ThreatSonarは、システムをスキャンすることで脅威が潜んでいる可能性を把握し、対応を行うための支援ツール。セキュリティー技術者が手作業で脅威ハンティングを行う場合、1日あたり数台の端末を調査するのが限界で、企業全体の侵害評価を行うのは難しいが、ThreatSonarを利用することで、潜在的な脅威を素早く発見できるほか、対応にあたって同社の専門的な知見を活用することが可能になる。横田シニアセールスエンジニアは「簡単に導入可能なので、IT管理者がいない拠点の脅威も可視化できる。サプライチェーンへの適用も行える」と話し、グループや系列のセキュリティーを全体的に高めるのにも有効との見方を示した。
コンテナ化技術によるレガシーアプリケーションの救済
トゥモロー・ネットのクラウドソリューション本部ソリューション部門の平田敦・ソリューションエンジニアは、同社が取り扱う米Numecent(ニューメセント)のアプリケーション仮想化製品「Cloudpaging」を紹介した。システムを最新OSへ移行する際、以前の環境向けに開発されたアプリケーションに互換性の問題が発生することがあるが、Cloudpagingは独自のサンドボックス技術を用いてアプリケーションをコンテナ化することで、最新環境での動作を可能にする。古いバージョンのJavaやVisual Basicをベースとする業務アプリケーションをそのまま持ち越せるようになるので、システム移行に必要なコストや時間を短縮し、ユーザー企業はIT投資を成長領域に集中できる。
トゥモロー・ネット
平田敦
ソリューションエンジニア
仮想化したアプリケーションの場合、複数のユーザーや端末で同時起動した際、ライセンス本数を超過して使用してしまうといった問題が発生することがあるが、Cloudpagingはアプリケーションをコンテナ化する機能に加え、コンテナの配信機能も搭載しており、ライセンスやセッションを適切に管理できるのが特徴。平田ソリューションエンジニアは「レガシーアプリケーションは多くの企業でまだまだ利用されている。CloudpagingによってDXに取り残されたアプリケーションを救済し、システム更新の提案をしやすくできる」と話した。
生成AI活用はITベンダーにとって不可欠に
セミナーの最後に行われたBCNセッションでは、「週刊BCN記者が聞く、東海エリアITビジネスの今とこれから」と題し、名古屋に本社を置き、製造業向けのIoTソリューションなどを提供するマイクロリンクの久野尚博社長を招き、本紙記者が東海エリアのITビジネスの現況と今後について聞いた。東海エリアの主要産業である製造業では、IT導入が遅れていた企業も多かったが、久野社長によると「コロナ禍が開けて以降、“先駆者”的な企業以外でもクラウドやIoTへの取り組みが進んでいる」といい、IT市場は活況を呈している。
マイクロリンクの久野尚博社長(右)に
記者が対談形式で話を聞いた
その一方、案件数の増加に見合う人的リソースを確保するのが難しくなっており、経営においては人材が最大の課題となっている。久野社長は「生成AIの活用は避けて通れない」と述べ、一人のエンジニアが複数のAIとチームを構成し、プロジェクトを加速していけるようにすることが、特に中小規模のIT企業には不可欠になると展望。また、事業継続に必要な人材を安定的に採用していくためには、自社の魅力を高め、それを発信していく力がすべての企業に求められるとの見方を示した。