三菱電機は、OT環境へのサイバー攻撃とセキュリティーを体験する施設「OTセキュリティラボ」を通じて、対策の提案を活性化している。OTセキュリティーの導入には、設備を熟知する製造部門と、対策を担う情報システム部門の連携が不可欠だが、両者の認識が異なることも多い。同社はFA(ファクトリーオートメーション)で培った現場の知見を生かし、橋渡しを図っている。2026年7月には大阪に2拠点目を設け、取り組みの規模をさらに広げる構えだ。
(春菜孝明)
OTセキュリティラボは23年にオープンし、現在はユーザーやパートナー企業との共創を目的にした同社の「Serendie Street Yokohama」(横浜市)に隣接する。大阪の拠点は大阪市にある関西支社内に設けた。
模型で工場を再現。
制御装置からの指示で、クレーンやベルトコンベヤーが実際に動く
ラボには、工場のラインのミニチュアを設置。倉庫や搬送ロボット、加工機がブロック玩具でつくられ、本物のPLCからの指示によって部品運搬の工程などが再現されている。ミニチュアを通じて、サイバー攻撃を受けた場合に、現場にどのような影響があるかを検証できる。
例えば、SCADA(工場設備の稼働監視システム)に、充電ケーブルを装ったBadUSBが接続され、制御信号が不正に送られると、PLCからの正規命令と重複し、生産ラインが本来の指示以上に動くなどの異常が発生する。BadUSBのコネクター部分には小型のマイコンやBluetooth受信機が組み込まれており、遠隔操作されたとの想定だ。
稼働を監視するSCADAと米Nozomi Networksの
「Nozomi Guardian」
用意している攻撃シチュエーションは9種類あり、来場したユーザーには2、3種類を実演する。さらに、ネットワークの可視化機器で異常な通信を検知・防御するなど、OTセキュリティー対策を導入した場合も披露する。実演には米Nozomi Networks(ノゾミネットワークス)の「Nozomi Guardian」、台湾TXOne Networks(ティーエックスワンネットワークス)の「EdgeIPS」の実機を用いる。
三菱電機のPLC(左)と台湾TXOne Networksの「EdgeIPS」
来場者からは、OT環境を狙ったサイバー攻撃のリスクが分かったと好評を得ている。製造現場の担当者と情報システム担当者が一緒に見学することで、設備の安定稼働とサイバーセキュリティーに対する認識を共有する場にもなっているという。
OTセキュリティラボを紹介する笹本明彦次長
OTセキュリティーを取り巻く環境について、デジタルイノベーション事業本部の笹本明彦・OTセキュリティ事業推進部次長は「意識の高まりを感じている」と語る。製造や流通大手でのサイバー攻撃被害が相次いでいることに加え、工場向けのセキュリティーガイドラインや、インフラ事業者にインシデント報告などを求める能動的サイバー防御関連法が整備され、OTセキュリティー対策が促されている。一方で、自社に対する現実的な脅威として捉えきれず、実際に踏み込んでいない企業も多いのが現状だとみる。
同社では段階的な提案として、早いタイミングでラボに来訪してもらい、顧客企業の経営層も理解を深める機会にしている。通信を可視化して脆弱性を見つける技術アセスメントや権限管理、保守プロセスを助言した後、製品の本格導入に移る。製品ラインアップには、ノゾミとティーエックスワン、セキュアリモートアクセスの米Dispel(ディスペル)をそろえる。さらに、三菱電機デジタルイノベーションのSOCサービスの知見を生かしたOTセキュリティーの運用監視も提供している。
26年1月に買収を完了し、完全子会社となったノゾミについて笹本次長は、FAや家電などの幅広い事業領域を持つ三菱電機にとって「どの領域でも必要になる下支えの存在」と意義を強調。領域を超えたデータ活用でイノベーションを進めるデジタル基盤「Serendie」を強化する意味合いも大きいとする。
OTセキュリティー事業では今後、個社の生産拠点だけでなく、グループ企業や取引先までを含めた、サプライチェーン全体にまたがる導入を訴求する戦略だ。ノゾミはアプライアンスだけでなくクラウド型のソリューションにも注力しており、「中小企業でも使ってもらえる製品を用意したい」と意気込む。