視点

リーン・フォワード

2002/02/25 16:41

 リビングルームで使って欲しいというAVパソコンは多いが、私の見るところ、ほとんどが失敗作ばかりである。

 かつてインテルが提案したPCシアター、液晶のオールインワンタイプ……など、思い出すのに苦労は要らない。

 なぜ、パソコンのAV化はうまくいかないか。その原因は、「リーン・フォワードかリーンバックか」を峻別していないことにある。

 リーンバックとは、最近、アメリカで流行りだした言葉で、ゆったりとした姿勢で、ディスプレイを見る姿勢を指す。つまり、われわれが日常、椅子に座り、リラックスしてAVを楽しむ姿勢である。 これに対し、リーン・フォワードとは、前向きの姿勢でディスプレイに向い、積極的に作業する――つまり、通常の姿勢でパソコンを使うことをいう。

 パソコンのAV進出の間違いは、リーンバックでなければならないAVライフに、リーン・フォワードを導入してしまったことだ。

 本質は50センチ文化か、2メートル文化かの違いである。パソコンは、画面と50センチの近接距離で前向きの姿勢で、マウスとキーボードという優れて指示的な道具を活用し、積極的に作業をするメディアであり、環境だ。

 ところが、そのアクティブさをリビングルームに持ち込むなんて、実はとんでもない勘違いだった。だって、AVを楽しむのに、前向きの姿勢で気迫をこめたりしない。ゆったりとソファに腰掛けて、背もたれに背中を預け、リラックスして映像を見る。だからパソコンはそのままの環境ではリビングルームに入らないのある。

 パソコンでAVするなら、リーン・フォワードを捨て、リーン・バックでなければならない。ようやくパソコン陣営も分かり始めたようで、2002CESでは、大きな動きがあった。マウスもキーボードも使わず、AV機器のようなデザインのパソコンをリモコンで操作する、ウィンドウズXPベースの「フリースタイル」というソフトウェア環境が提案されたのだ。まさに、リーンバックである。

 しかし――と思う。リーンバックをやるならば、その経験の長いAV機器の方が、はるかに使いやすい環境が実現できる。リーン・フォワード環境で最も強みを発揮するパソコンが、それを捨ててまで、リーンバックに依拠する必要はあるのだろうか。
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