IT革命第二幕 ~e-Japanのゆくえ~

<IT革命第二幕 ~e-Japanのゆくえ~>第2章 28.安値入札

2002/03/18 16:18

 昨年11月22日、公正取引委員会は、東京都が発注した「文書総合管理システムの開発業務委託」について、日立製作所に対して独占禁止法の規定に違反するおそれがあるとして警告を行った。政府のIT戦略本部が「e-Japan重点計画の加速・前倒し」のなかで、02年度内に「情報システムに関わる政府調達制度の見直し」を行うことを明記したわずか2週間後のことである。さらに今年に入って、2月には金融庁発注の情報システムでも富士通が独禁法違反で警告を受けた。この情報システムの入札日は「政府調達制度見直し」の方針が打ち出された1週間後のことで、政府の方針は完全に無視された格好だ。

 極端な安値での落札によって、本当に質の高い情報システムを構築できるのか。そうした国民の疑問に対してどう答え、品質をどう担保するのかという点が、まさに国民に代わって発注を実施している行政機関が頭を悩ませている問題である。情報システムの安値入札は、約10年前にも富士通が行った1円入札事件があまりにも有名だ。わが国の建設関連公共事業の入札では“最低制限価格”が設定されているのが一般的だが、WTO(世界貿易機関)の規定では本来、競争制限的な手法として設定できないことになっている。その代わりに、入札価格できちんと契約内容が履行できるのかどうかを調査する低価格入札調査制度が設けられている。これに公正な競争を阻害していないかどうかを監視する独禁法を組み合わせて、公正な入札を担保しているわけだ。

 しかし、こうした制度を運用することは、国レベルでもなかなか大変なのが実情で、地方自治体レベルでは対応がほとんど困難だとみられている。そこで情報システムの品質を担保する手法として、技術力を評価する制度が導入された。応札企業の技術力を評価した点数と、入札案件そのものの提案技術内容を評価した点数の、2つをミックスした技術点を算出する。その点数を入札価格で割って、1円当たりの技術点を出して比較する「総合評価落札方式」が導入された。ただ、応札価格が先の東京都の事例が示すように、750円から1億3200万円と、差が10万倍以上となると、技術力の評価を十分に反映することは実態として困難であるといえる。それでは、安値落札にどう対応するのか。

 評価すべきポイントは、やはり技術力と価格だ。技術力の評価では、改めて業者の技術力の評価と、提案案件の技術内容評価、そしてその2つをどう組み合わせるかの観点から検討が進められている。情報システムの開発は複数年に及ぶケースも多く、その後は保守・運用費用が発生する。価格評価については、最初に契約したあとで随意契約によって最終的には帳尻を合わせようとする企業側の価格戦略に対して、入札価格は複数年契約となった時の開発費用の見通しまで含めて評価する必要があるという考え方だ。さらに、地方自治体レベルでは運用が難しいとみられてきた低入札価格評価制度も、運用しやすい手法を検討して、積極的に活用する必要があるのではないか。気になるのは、情報システムを導入する効果をどのように評価するかが不明な点だ。入札による相対的な価格だけを評価するのではなく、情報システム導入による経費削減効果など効果を価格評価に反映させる指標を導入することが必要だろう。国レベルでは、電子政府の実現に向けて、情報システム導入のための入札は02年度の前半には一巡するが、地方自治体レベルでは、これからが本番。総務省を中心とした見直し作業も、02年度に最終的な取りまとめが行われる見通しだ。
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