視点

企業の信用

2002/06/03 16:41

週刊BCN 2002年06月03日vol.943掲載

 金融機関の再編にともなうシステム統合がうまく行かず、大規模なシステム障害が発生し、大きな社会問題となっている。米国でも金融再編にともない、システム統合がいくつも行われているはずなのだが、大きな障害があったというニュースは聞いたことがない。おそらく、日本の金融機関よりはるかに危機意識が強く、徹底的な事前テストなどを行い万全な体制を整えているに違いない。その背景には、システム障害が起きれば、信用が失墜し、顧客離れが起きるとの懸念があるからであり、そうなった時の経済的損失の大きさが分かっているからである。

 この金融機関のシステム障害に関する報道を見て、「大変だな」と他人事のように見ている経営者がいるかもしれないが、それは間違いだ。最近読んだニュースによれば、米国企業と比べて、日本企業のセキュリティ対策費用はまだまだ少ないという。セキュリティ対策を怠ると、情報システムに蓄積された重要な情報資産を破壊されたり、盗まれたりする危険性があるだけでなく、企業の信用さえ失う可能性すらある。それはまさに銀行のシステムトラブルと同じ問題なのだ。不正アクセスによって被害を被っても、当局に通報しない企業も少なくないという。おそらく、信用が傷つくことを恐れているのだろう。しかし、企業側が口をつぐんでいても、不正アクセスを行った側がそれを暴露する可能性がある。あるいは、それをネタに企業を恐喝してくるかもしれない。

 例えば、不正アクセスによって顧客情報が盗まれたのが明らかになれば、間違いなくその企業の信用は一夜にして失墜するだろう。情報セキュリティに不安のある企業とは、今後一切、取り引きしたくないと言われてしまうかもしれない。もちろん、セキュリティ対策にはそれなりにお金がかかる。しかし、そのセキュリティ対策費用をケチれば、企業秘密や顧客情報の漏洩といった被害を被り、企業の信用や取引先まで失ってしまうかもしれない。また、個人情報を含む顧客データを蓄積している場合には、プライバシー保護という社会的な責任もある。企業経営者は、情報セキュリティ対策の重要性をもっと強く認識すべきではないだろうか。
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