視点

健康と欲求の矛盾

2002/08/05 16:41

週刊BCN 2002年08月05日vol.952掲載

 人間の本能的な欲求には、「健康欲」というものはないのだそうだ。健康や衛生といった概念は、生後の教育や経験などを通じて知識として獲得される。人間のカラダの仕組みは長い長い縄文時代にでき上がったといわれる。そして、当時の野性的な生活に適応したカラダの仕組みは、今もわれわれに受け継がれている。この縄文時代から受け継がれたカラダの仕組みは、急激な近代化のなかで生じた生活様式の変化とともに、大きなアンバランスを生み出した。飢餓への対応のために血糖を高める仕組みが糖尿病を誘発し、怪我をしたときの止血の仕組みが血栓症を、血管損傷を防ぐ脂肪吸着の仕組みが動脈硬化を、感染から守る免疫の仕組みが感染症を引き起こすことになった。

 例えば、人間の体には血糖を高める役割を担うホルモンは、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺ホルモンなど計5つもあるが、血糖を下げる役割を担うのはインスリンただ1つだけしかない。従って、現在の豊かな生活環境のなかでは、本能の命じるままに心地よく暮らしていると、加齢に応じてさまざまな病気にかかる割合が急激に増加する仕掛けになっている。病気治療では、自覚症状の改善という明確な結果が得られれば成功で、そのために何をするかは専門家に任せておけば良かった。ところが予防医学では、自覚症状がほとんどないにもかかわらず、自分自身の意思によって、個人の欲求や楽しみを追求するだけの生活スタイルとは相反する行動をおこさなければならない。われわれ現代人にとって、より多くの楽しみとそれを支える健康を両立させることは、非常に大きなテーマとなってきた。

 生体内には、内部の各機能が安定状態を保てるように、生体恒常化の働きがある。この恒常化の働きを上手に利用するためには、今自分のカラダにおきている変化の内容を知ることが重要になる。他人任せの検査ではなく、自身でマネジメントしたきめ細かい検査結果と継続的な数値変化を観察することでカラダの変化内容や病症リスクを知り、許容範囲いっぱいの楽しみを作っていけば良い。在宅での簡便な検査システムが色々と研究・開発されていて、今後血液をはじめとした新しい検査・指導サービスが各種市場に出てくる。健康と楽しみをバランスさせた個性的な現代的生活スタイルを追求してほしい。
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