視点

高度IT技術者5万人の育成は可能か

2003/04/21 16:41

週刊BCN 2003年04月21日vol.987掲載

 ご承知のように、日本の情報サービス産業規模約13兆円に対して、米国は41兆円で3倍だ。ところで、企業数は両国とも約7000社でほぼ同じだが、従業員数については米国の90万人に対し、日本は56万人、つまり米国は企業平均で1.5倍しか技術者を抱えていない。いってみれば、30年近くかかった米国並みのリストラ(人員削減)をこちらでもやれば、2人に1人は過剰であることになる。

 そこで、「中堅企業のIT技術者は、経産省主導のIT標準にもとづいた技術力を向上させろ」というJISA会長の檄になる。ちなみに、経済産業省は今後3年間をめどに、高度なITの専門家を国内で5万人育成するという。これは、業界や学会、大学関係者がつとに提唱してきた歓迎すべき方向だ。大切なのは、「高度」という概念・コンセプト・イメージが中核課題にあることだ。

 数年前、試験センターの所長にご一緒して米国のIT技術水準と教育水準を調査した折、もっとも印象に残ったのは、「IEEEソフトウェア」の編集長を兼ねていたスティーブ・マコネル氏が社長のベンチャー企業のリクルート方針であった。同社は米国IT技術者の1%以内の高度人材しか集めない。社員は全員、いくつかの学会のアクティブな会員で(つまり年1回は論文を発表する)、専門書と専門誌を購読し、設計・実装のどれかあるいはどちらにも強く、広く深くソフトウェア工学に明るく、ソフトウェア工学修士課程レベルの実力をもつ。これがスティーブの「高度」という定義である。この定義に諸手をあげて賛成するわけではないが、日本の実情は次のとおりだ。

 「ソフトウェア開発技術者」(旧1種)や高度人材(ネットワークスペシャリストなど)で論文を書く技術者はきわめて少ない。専門誌(「情報処理」はここ10年、3万部の横這いだ)の購読者は業界ではほんのわずかだ。実装に強いいわゆるSEはきわめて少なく、なかにはプログラミングを蔑視するSEさえいる。スティーブの爪の垢でも飲ませたい輩だ。ということで、5万人育成する高度人材の「高度技術」には充分の中身が欲しいものだ。米国のそれに対する健全な咀嚼・批判も必要だ。そして、日本独自の「IT標準」に魂を入れて欲しい。さらには、元禄や文化文政以来の文化文明を背景にした、この国の独自技術という視点こそが欲しいものだ。
  • 1