視点

オープンソースの神話と真実

2003/12/22 16:41

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 今年は世界的にオープンソースが認知された年だった。その代表選手はLinux。世界各国のオープンソース事情を調べている三菱総研の比屋根一雄主任研究員によると、タイでは今年Linuxベースの低価格デスクトップ機「国民PC」が256ドルで発売され、これまでに10万台売れた。ドイツのミュンヘン市では、議会が市当局の使う1万4000台のパソコンをすべてウィンドウズからLinuxへ移行することを決議し、IBM陣営が3940万ドルで受注した。このほかブラジルが全政府の80%のパソコンを3か年計画でオープンソースに移行する。

 いずれもコスト削減が大きな理由だが、タイはデジタルデバイド解消が大きな政策目標になっているそうだ。ところが、安い国民パソコンが出たとたん、マイクロソフトがそれまで400ドルくらいで販売していた、ウィンドウズとオフィスの販売価格を一気に36ドルに値下げしたそうだ。ミュンヘン市でもオープンソースへの移行に驚いたマイクロソフトが300万ドル近くも値引きして、3660万ドルを提示、それでも逆転受注できないと分かると、1600万ドルOFFの2370万ドルの価格を提示したのだそうだ。まるでバナナのたたき売りである。

 ソフトの価格は昔から、あってなきがもの、といわれてはいたが、ここまで露骨な値引きがあると、日本の消費者が支払っている価格はいったい何なのか、と思えてくる。11月、大阪で開催された日中韓オープンソース懇談会でのこと。「中国代表団がこんなことをいっていた。オープンソースを推進すればするほどマイクロソフトはいうことを聞く。日本政府はなぜ気兼ねするのか」。日本側関係者がこっそり教えてくれた。同じくレセプト処理機のオープンソース化を推進する日本医師会。従来のウィンドウズ系納入業者がレセプト処理機の価格を大幅に値引きしてきた、という話も聞いた。

 オープンソースはライセンス料が無料だから端末が多いほど導入コストは安くなる。だが、それは神話で、保守費も含めるとトータルでは安いかどうか分からない、とマイクロソフト陣営は主張してきた。しかし、ここまで露骨な値引き話を聞かされると、いったん安値で受注し、その後の保守で利益をひねり出す日本情報サービス産業のお家芸、安値商法と何も変わらない。2004年以降、ソフトのあり様は大きく変わる予兆がする。
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