視点

日本発コンセプト

2004/03/01 16:41

週刊BCN 2004年03月01日vol.1029掲載

 昨年、12月10日から12日までスイスのジュネーブでWSIS(World Summit on the Information Society)という会議が開かれた。国連主催で実質はITU(International Telecommunication Union)が主導したものである。54か国の政府首脳、83人の情報通信大臣、176か国から2万人が参加した、大きな会議であった。表向きには基本宣言、行動計画の合意は見られたものの、内容はきわめて政治的な妥協に終わらざるを得なかった。

 このような中で日本は麻生太郎総務大臣以下、政府関係者、民間関係者の努力により際立った存在感を与えたように思える。本会議とは別に日本政府主催のワークショップが設けられ、そこで「ユビキタスネットワーク社会の展望」というパネル討議があった。NHKの久保純子アナウンサーが親善大使として総合司会を務め、野村総研の村上輝康理事長が基調講演を行い、私がコーディネーターとしてパネル討議を行った。シスコシステムズ、コリアンテレコム、ボーダフォンなど外国勢に混じって、NTTドコモ津田志郎副社長、トヨタ自動車渡邉浩之専務、NEC杉山峯夫副社長が活躍した。

 日本が「ユビキタスネットワーク」というようなコンセプトで情報発信を行えたことは、画期的なことだと思っている。今まで日本は、海外発のコンセプトを技術力で実現することにフォーカスしてきたので、未来の情報社会像をコンセプトとしてまとめるようなことは出来なかった。

 しかし今、日本は世界で一番安価で信頼性が高い通信インフラを普及させ、RFIDチップ、2次元バーコード、ソフトウェア無線、バイオメトリクス、ミリ波等の識別技術も一流のものをもっている。またエレクトロニクスメーカーの活躍により、薄型テレビ、携帯電話、PDA(携帯情報端末)、デジタルカメラ、DVDなど有り余るヒューマンインターフェイスをもつようになった。諸外国のIT企業がこぞってこの分野に参入してきたが、まだまだ日本のメーカーがバランスのとれた、世界のトップランナーである。このような技術に裏付けられて、「ユビキタスネットワーク社会」というコンセプトを単なるコンセプトでなく、自ら実現するという気概をもって発表したことに意義がある。不安と不安定な環境のなかで、こういう気持ちを持ち続けることが経済再生に繋がるのではないか。
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