視点

中国の製造業

2004/07/05 16:41

週刊BCN 2004年07月05日vol.1046掲載

 私は生活大国という言葉が嫌いだ。

 言葉というものは世相を反映するものであるが、国と地方自治体を合わせて700兆円を超える借金を抱えた国に不相応な言葉だ。最近の日本の経済を明るくしているものにデジタル景気がある。いわずと知れたDVD、薄型テレビ、デジタルカメラの新3種の神器である。エコノミストもマスコミも日本のリーン・マニュファクチャリング(Lean Manufacturing)の勝利であるという。確かに嬉しい。賃上げ・時短・少子化で弱り切った日本の製造業が現場の生産技術の改善で息を吹き返しつつある。源流はTPS(トヨタ生産システム)である。無駄をなくす。一秒一歩を節約する。塵をなくす。静電気対策を施す。すべて従業員の現場における小さな改善の積み重ねである。

 大手エレクトロニクス企業がこの10年安い人件費を求めて東南アジア・中国へと次々に製造現場を移していった。またそれがある程度成功し、国内のリストラと併せ2003年の業績改善に貢献した。リーン・マニュファクチャリングこそ電子産業・自動車産業の競争力のカギである。こんな愚直な、コスト削減・品質改善は日本以外の国では成立たないといわれている。もっともなことである。

 今、中国ではワールドクラス・マニュファクチャリングというコンセプトが流行している。米国系のマニュアルによる生産方式である。詳細なマニュアルと「何も足さない、何も引かない」というものである。

 こういう生産方式が中国で成立するかどうか昨年から考え続けてきた。昨年はSARSの流行で取りやめたが思い切って5月中旬、中国の工場を詳細に見学した。深 、東莞、上海、蘇州と沿岸を旅行した。中国は画一的に語ることはできない。結果はマチマチであった。

 生産技術は劣悪だが低賃金で外資に対抗しようとしている工場。最新の製造ラインを設置し、これはカリフォルニアではないかと間違う程の工場。しかし、最後に見た工場には驚かされた。部品受入検査、現場の塵埃対策、ESD対策、梱包現場温湿度管理、すべてが整い、従業員も良く訓練されTPSの見本のようであった。業績は毎年数10%伸びるという。

 中国は画一ではない。中国人は柔軟である。もし、日本再生を製造業が担うのであれば、労働関係法、労働慣行等全く見直さなければ実現は危うい。
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