視点

青空文庫7年目の成果

2004/08/09 16:41

週刊BCN 2004年08月09日vol.1051掲載

 青空文庫が動き出してから、丸7年が過ぎた。出発点は、電子本の作成ツールだった。これなら、画面で読めるものができる。インターネットでアクセスすれば、図書館として使える。取りあえず、少しでも置いてみよう。こう考えた4人で準備して、1997年の夏にファイル5つを並べた。活動の目的を示すページには、著作権切れ作品の電子化を協力して進めようと書いておいた。すると1人、また1人「手伝おう」と声をかけてくれる人が現れた。作業マニュアル。著作権切れ作家のリスト。作業の重複を防ぐための進行表が必要と、その時になってはじめて気付いた。基礎資料が整うにつれ、作業協力者が増えた。

 無料公開が大前提の青空文庫には、安定的な収益構造はない。入力や校正をはじめ、すべての作業は原則的にボランティアがこなしている。企業等の支援と小規模の広告で逃れられない経費を賄い、7年で4000点ほどのファイルを電子化した。現在ではデータベースによって、各種の索引や進行状況を示す表が、日々自動更新されている。外形的な図書館としての仕立ては多少整ってきたが、収録点数はまだまだ。突き放して言えば、電子図書館の実証モデルを、かなりしっかり作ってみたレベルが現状か。ただし、内なる志によって青空文庫は、「著作権の空念仏は、実効性のある理念に変わりうる」ことを、すでに証明し終えたのではないかと思う。

 著作権法は第1条に、著作物の公正な利用と、権利の保護という2つの柱を立てて、双方のバランスをとりながら文化の発展に寄与することが、自らの目的であると掲げている。著作者に固有の作品を使って儲ける権利を、死後50年で打ち切ると歯止めをかけているのは、公正な利用の促進もまた、文化の発展の推進力となりうると認めているからだ。ただし、収益構造と結び付く権利保護の側には担い手が再生産され続けるものの、もうからない公正な利用の促進の側には、これまで立つ人がいなかった。その状況を、複製と配布のコストを劇的に引き下げるネットワーク環境が変えた。ここでは、ファイル作りに自分の労力をそそぎ込む覚悟1つで、ただの個人がその理念の担い手となりうる。青空文庫はすでに、そのことを示し得たと思う。
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