視点

「やっちゃいけない」からは何も生まれない

2004/11/15 16:41

週刊BCN 2004年11月15日vol.1064掲載

 今年の4月からBSデジタルと地上デジタル放送で導入されたコピーワンスというDRM(デジタル著作権管理)には大いに問題がある。これは「1回だけ録画可能」という信号を放送波につけるもの。ハードディスク(HDD)レコーダーなどに録画は可能だが、そこから他の機器へのコピーができなくなった。

 導入の背景には不正コピー問題がある。デジタル放送だと、まったく劣化なしにコピーが簡単に作れる。そうなるとコピーの氾濫を恐れる権利者からコンテンツの放映を止められる恐れがあるということから、まずWOWOWが2000年にBSデジタル放送がスタートした当初から導入し、今年の4月に全局、全番組が追随した。

 しかし、私のように熱心にエアチェックするユーザーからすると、本当に不便な制限だ。ハードディスクに録画はできる。それを録画用DVDに移す場合には、CPRMという著作権保護技術に対応したディスクにしか移動できない。いったん移したコンテンツはHDDから消えるから、見たいと思ったら再度、DVDをセットして…というように面倒なことになる。

 さらに面倒なのは編集作業。例えば紅白歌合戦で松浦亜弥が出演するシーンだけをまとめたいとする。入場から歌のシーン、応援合戦と番組中に何回も登場するのだが、これをDVDに移すのはムーブ環境では非常にたいへんなことだ。コピーフリー環境なら、作成したプレイリストのまま自動的に順番を入れ替えてコピーできるが、コピーワンス環境のムーブでは、プレイリストが効かないから、複数移動がたいへんな作業。

 不正コピーの販売など未然に防ごうと、十把一からげに制限するのはいかがなものか。そこに欠落してるのは、これまでのユーザーがどういう行動を取って、放送を楽しんでいたのかという視点だ。だから視聴者が番組を編集しようとすると、一気にその問題点が露呈してしまう。これはパソコンで音楽を楽しむユーザーを無視して導入し、大きな反発を食らったCCCDと似たような構造の問題だ。

 「やっちゃいけない」からは何も生まれない。大事なコンテンツを放送局に死蔵させないで、活用の道を開くことで、新しいビジネスチャンスにもなるのではないか。例えばダビング1回いくらなど、課金制もいい。高画質のハイビジョン放送を録りたい、残したい、編集したいという視聴者の要望に応える、ユーザーを大切にするDRMを開発したいものだ。
  • 1