視点

JR西日本事故とシステム信頼性

2005/06/27 16:41

週刊BCN 2005年06月27日vol.1094掲載

 4月25日午前9時18分、JR西日本福知山線で死者107名の大惨事が発生した。以来1か月余り、JR関係者からのお詫びと被害者のやり場のない怒りが連日、繰り返しテレビ報道された。どう詫びても被害者側の怒りや悲しみを鎮めることはできない。それは誰にでも分かることだけに何ともやりきれない思いであったが、私は被害者のご家族、友人の苦痛を思うと同時に、加害者側への同情をも禁じ得なかった。長い間工業製品をつくり、使って貰う立場にあった者の性であろう。上手く動いて当たり前、不具合でも起こそうものなら一騒動起こることは必定である。当然である。当然ではあるが、なかなか大変なことである、という思いも拭い去れない。

 人類は誕生以来、便利な道具を創り出し、科学上の真理を究明し、それを応用した高度な工業製品を生み出してきた。ジャンボジェット機、新幹線、超高層ビル、橋梁、地下鉄、原子力発電所、通信施設、コンピュータ…等々数え上げればきりがない。この人間の本能とも言うべき性を止めることはできない。だが便利で快適な文明の利器の光の陰には必ず人災という新たな危険が潜んでいる。当然何事も起こらずに済む時間の方が遙かに多いからこの陰の部分をつい忘れてしまう。

 恐ろしいことだが、ある確率で必ず起こるこの危険を覚悟しなければ現代に生きることはできない。読者の多くが関係するコンピュータ、ソフトウェアも航空管制、列車の運行、銀行業務等々に深く関わっていることを思えば例外ではない。事故発生の確率をさらに低くするにはどうすればよいのか。識者のさまざまな指摘にさらに2つを加えたい。まず机上の教育で伝えきれない豊富なノウハウを持つ、2007年にその多くが第一線を去るであろう高齢の経験者を安全システム人間系に組み入れることである。そしてできるだけ長い時間をかけて若い人にそのノウハウを伝承していく。これに優る方法はない。次に運転手、技術者等々の額に汗する人々の処遇をもっと良くすることだ。日本にとって技術が大事だ、理系を選ぶ者が少ないと心配するなら、その処遇を良くすればよい。この人達は職種上のノブレス・オブリージェ(高貴なる者の義務)とも言うべき人だ。日頃から然るべき処遇を受けその上で自分の果たすべき役割を命懸けで全うする人でなければならないのだ。かけるべき技術や教育にお金と時間を惜しめば日本の高信頼性システムに将来はない。
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