視点

私の終わりを公の始まりに

2005/08/15 16:41

週刊BCN 2005年08月15日vol.1101掲載

 国立国会図書館は、自館の枠を越えた、我が国のデジタル情報全体を対象とする検索システムの開発を目指している。NDLデジタルアーカイブポータル(http://www.dap.ndl.go.jp/home/)と名付けられたこの野心的なシステムのプロトタイプが7月8日に動き始めた。現時点では、明治期の著作権切れ書籍の紙面を画像で提供する同館の近代デジタルライブラリーと、民間のボランティアが整備しているテキストベースの青空文庫のファイルが、検索対象の中心となっている。

 例えば「後世」をキーワードとして検索すると、青空文庫にある内村鑑三の「後世への最大遺物」や、芥川竜之介の「後世」等がヒットする。「後世への最大遺物」は、近代デジタルライブラリーにもあり、最初に印刷に付された、京都の便利堂版を参照できると分かる。検索結果からは、作品自体へのリンクが付けてある。キーワード検索のほか、連想検索、分類番号検索、新着・更新コンテンツ表示、参照ランキングの機能が現時点で提供されている。今後、他のデジタルアーカイブを順次、統合検索の対象として組み込んでいくという。

 青空文庫の準備に関わった時、筆者などは「著作権の切れた作品ならインターネットで公開できる」と、自分たちが作品を利用することばかりを考えていた。ところが開館直後、視覚障碍者の読書支援にファイルが利用できると教えられた。つくりためたファイル群は、漢字使用の調査対象として利用でき、言葉の用例集にもなると知らされた。提供ファイルの中心として当初は、晴眼者にとって読みやすい、メーカー固有の電子本フォーマットを据えていたが、文庫から先に利用の裾野を広げてもらう上では、標準形式のファイルを同じ手順で作ることが肝要と教えられた。作家別のリストや図書カードを生成するために収拾した書誌データも、最新のものを日々更新しながら公開しておけば、いろいろと活用してもらえることに気付いた。

 著作権が切れることを、単に「私有の終わり」ととらえるのでは貧しすぎる。広く、長く、誰もがさまざまな用途に活用できる、社会の共有資産化の第一歩、「公有の始まり」としてこそ、とらえたい。「公の資産」となったものの居場所をあまねく示そうとする、NDLデジタルアーカイブポータルの根にも、同じ覚悟がある。
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