視点

製品開発における垂直思考

2005/10/03 16:41

週刊BCN 2005年10月03日vol.1107掲載

 アップルコンピュータのiPodが一般紙で取り上げられるほど評判になっている。なぜこれが「ウォークマンのソニー」から最初に出されなかったのか、少し残念に思った。ソニーからウォークマンが出たのは1979年のことである。後年、故盛田昭夫氏は「決して新技術ではなかったが、商品企画の勝利であり大きな事業領域を形成することができた」と回想している。その後独自のMD(ミニディスク)によりこの事業の優位性を保ったが、iPodにその地位を奪われるかもしれない。

 テクノロジーはこの製品とは全く別の世界でどんどん進む。ウォークマンの重要コンポーネントであったカセットテープはMDからハードディスクドライブ(HDD)へと進み、さらには機構部を持たないフラッシュメモリへと発展した。そして無線通信は音楽・画像コンテンツが天から降ってきても十分なほど高速になり料金は低廉となった。「ウォークマン」に携わった人たちがこれらのテクノロジーの進歩に気づかなかったはずはない。iPodをソニーが先頭切って出せなかったことを残念に思う。そしてその原因が今日の日本の情報通信産業の不振につながっているのではないかと心配するのである。

 テクノロジーが製品と事業に革命をもたらすことは枚挙にいとまなく当然のことである。超高速汎用マイクロプロセッサによりコンピュータはオープンサーバーになり、外部記憶装置は多数の小型HDDから構成される高信頼性・超大容量記憶装置となった。表示装置はCRTから液晶、プラズマとなり、そしていつの日か有機ELに取って代わられるかもしれない。

 1つの製品と事業が開拓されたら、テクノロジーの進歩をにらみながら、それを継続的に発展させる努力を続けることが技術企業の安定的成長にとって肝要である。今日、通信の世界ではかつての交換機がさまざまなルータに置き換えられつつある。この交換機とルータという、似ても似つかぬ製品が通信機システム技術・製品・事業開拓における垂直思考のなかではつながっているのである。ある技術・製品・事業を発展的に守ることは決して保守的な姿勢を意味するものではない。長く地道な5年、10年、15年、20年の垂直的努力が「交換機からルータへの革命」を起こし得るのである。日本企業が常に垂直思考を忘れず、変化の激しい世界の情報通信システムのなかで再び勢いを取り戻してもらいたいものである。
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