視点

ビジネスモデル見えぬ次世代IP網

2005/12/19 16:41

週刊BCN 2005年12月19日vol.1118掲載

 NTTが中期経営戦略を発表した。事前にはNTTグループ再編か、とメディアに騒がれたが、再編といえるのはNTTレゾナントとNTTコミュニケーションズの統合くらいで、大山鳴動ネズミ一匹だった。

 戦略の中でもっとも注目すべきは、来年から次世代IP網への移行が段階的に進められる点だ。従来の固定電話網からIPによるネットワークへ移行するスケジュールが示されている。しかし移行計画はまだ曖昧な部分が多く、21世紀の通信ネットワークの俯瞰図が描けていない。つまりどこでどんな収益をあげるのか、次世代のビジネスモデルが描けていない。昨年決めた2010年に光加入3000万以外に数値的目標もない。電話時代の安心で安全なネットワークをIP時代でも実現するという過去のモデルを踏襲するだけで、IP時代のNTTのあり方が描けていない。

 IPはインターネットで築かれてきた技術で、もともと安心で安全な技術とは言い切れない生い立ちがある。しかし、IP技術を使った通信インフラは時代の流れである。かといって固定通信網時代のような安定性、信頼性を確保するのは並大抵ではない。まして、ブロードバンド時代のトラフィックは電話時代と比較にならないほど膨大になる。こうしたトラフィックを確実に交換、流通させるには、超高速ルータなど技術開発も必要である。さらに従来の電話網を維持しながら、次世代IP網を構築するのだから、老人介護をしながら何人もの子育てをするようなものである。

 経営計画では、次世代インフラの構築はNTT東西、ドコモに引き受けさせ、NTTコミュニケーションズにはインフラ構築の負担を負わせず、グループの各種サービスを統合する役割を持たせた。ある意味で、ネットワークの水平分離を一歩進めたともいえる。NTT東西がIPインフラを一手に引き受ける体制について、ライバル社は独占の復活だと批判しているが、どうすれば早く効率的に次世代インフラが構築できるか、の道筋を示さなければ、ためにする批判と批判されても仕方ない。

 NTT自身が電話時代の安心で安全な通信網の構築という観念から開放されないと、次世代通信インフラの具体像はいつまでたっても描ききれないのではないか。高速大容量のインフラを安く構築すれば安心安全は後からついてくるくらいの発想の転換が必要かもしれない。量はいずれ質に転化するのだから。
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