システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>7.オオノデジタルワークス .NETきっかけに下請けから脱却

2006/01/02 20:37

週刊BCN 2006年01月02日vol.1119掲載

 ソフト開発のオオノデジタルワークス(大野正子社長)は、.NETアーキテクチャーの採用をきっかけに下請け構造からの脱却を果たした。大型汎用機向けのソフト開発などを請け負ってきたが、プログラムの開発コストの削減圧力で経営が悪化。最盛期には約20人いた社員を削減せざるを得ない苦境に陥った。打開策としてマイクロソフトの.NETアーキテクチャーをベースにエンドユーザーへの直接営業を試みたことがきっかけで、元請け依存の経営体質からの脱却に成功。今後はベトナムなど海外から.NET技術者の受け入れ支援を手がけ、オフショア開発の体制づくりに取り組む。(安藤章司●取材/文)

ソリューション営業に軸足移す

■.NETでユーザーからの直接受注に成功

 オオノデジタルワークスは1990年に設立。大手メーカーの大型汎用機向けのソフト開発などを手がけてきたものの、規模が小さい同社では、大型汎用機などに使う大規模なソフト開発を丸ごと請け負えないため、複数のソフト開発ベンダーから仕事の一部を請け負う形態が多かった。元請けである大手メーカーから数えて3-4階層下の下請けに甘んじることもあったという。最盛期は約20人の社員がいたが、バブル経済崩壊後の約10年間で、プログラマー1人の1か月の費用を示す人月単価が2-3割下落。経営が苦しくなり、次第に人員を減らさざるを得なくなった。

 こうしたなか、02年10月に、マイクロソフトの.NETアーキテクチャーをベースにエンドユーザーに直接提案していたソフト開発案件の受注が決まる。同社が元請けとして初めて受注したケースになった。

 プログラム開発のみの請け負いなら赤字すれすれの仕事だが、コンサルティングやシステム設計、納入後の保守サービスまでプロジェクト全体を元請けとして受注することで、「トータルとして一定の粗利率を確保できる」(大野清光・取締役システム営業部長)体制をつくった。

 以来、大型汎用機の請け負い開発を減らし、エンドユーザーへの.NETアーキテクチャーをベースとした独自提案に力を入れるようになる。昨年度(05年3月期)ではソフト開発関連売上高のほぼ100%を.NET関連が占めるまでに拡大。.NETアーキテクチャーをベースとしたビジネスの拡大を目指す業界団体.NETビジネスフォーラム(松倉哲会長=東証コンピュータシステム社長)にも加盟した。

 エンドユーザーへの直接的なアプローチは、大野取締役がオオノデジタルワークスを起業する以前に勤めていた大手システムインテグレータ(SIer)での経験を生かした。

 大手SIerではエンドユーザーから直接受注するケースが多く、大野取締役はエンジニアとしてエンドユーザーの要望を聞き取ってシステム設計に反映していた。

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■保守やソフトの手直しで利益率高める

 大手SIerでは汎用機からオフコン、オープン系に至るまでさまざまなプラットフォームに対応した大規模なシステム開発が可能だが、経営リソースが限られる中小ソフト開発ベンダーにとって、こうした案件をエンドユーザーから直接受注するのは困難だ。そこで、同社では.NETアーキテクチャーに特化し、開発した業務システム全体を一定期間サポートする契約形態にしてもらうことで、「中小ソフト開発ベンダーでも採算が合う」ソフト開発の手法を編み出した。

 ひとつのアーキテクチャーに特化することで開発リソースの一元管理が可能になるとともに、開発した業務システムに対して、例えば5年の保守サービス契約を結ぶことで安定的な収益が得られる仕組みだ。

 5年の間には、保守サービス料金に加えて、新しい法制度への対応や出力帳票の変更などソフト改変の手直しに関する追加受注も期待できる。.NETアーキテクチャーに特化し、業務ソフト全体の開発環境を手元に保管することで、開発から年数が経ったソフトの改変でも対応しやすくした。

 こうした手法を確立したことで、請け負い開発から脱却し、エンドユーザーの経営問題などを解決するソリューション型のビジネスに軸足を移せるようになった。

 大手SIerのように何百人月も必要な大型案件の受注は無理でも、自社の規模に合った範囲でエンドユーザーから直接受注している。社内の開発人員だけでは対応しきれないときには、外部にソフト開発を発注して開発費用が膨らむケースがあるが、一定期間の保守サービス契約を結んでいるため、「納入時点では損益分岐点がすれすれだとしても、長期的に見れば粗利率の高いビジネスに育てることも可能」と、納入後の保守サービスやソフトの手直しなどトータルで見て粗利率の高いビジネスモデルを構築した。

■ベトナムの技術者との連携を視野に

 また、オオノデジタルワークスでは、ベトナムから.NET技術者を招く準備も進めている。ベトナムの教育機関では優秀なIT技術者が多数育成されていることに着目した。.NET技術に精通した若い技術者を日本国内に招き、2-4年間の実務経験を積んでもらったあと、ベトナムに戻ってソフト開発に従事してもらう計画だ。人件費の安いベトナムでソフト開発を行うことで価格競争力の向上を狙う。

 日本語の壁や商習慣などの違いなどから、日本での実務経験がないままの状態で、いきなりベトナムのITベンダーにソフト開発を発注しても、うまくいかないケースが多い。

 このため、日本での実務経験を通じて日本語や商習慣に精通した.NET技術者を育成し、ベトナムの他の.NET技術者との橋渡し役を担ってもらうことで、ベトナムでのより円滑なソフト開発を促進する。

 大野取締役は、05年11月7日から1週間弱の期間で、東京都中小企業振興公社が行った「ベトナム(ハノイ)経済視察調査団」に参加して現地を視察してきた。実際にベトナムを訪れて「ベトナムの若者は勤勉で、中国などと比べて反日感情が少ない」という印象を得た。

 現在、ベトナム政府や東京都などの支援を得て、.NET技術者を国内に招き入れる準備に着手している。将来的には、上流行程のコンサルティングやシステム設計、保守サービスにより経営資源を集中して、人月単価の値下げ圧力が強いプログラム開発工程はベトナムでのオフショア開発を活用することなどを視野に入れる。

 開発プラットフォームを.NETに集約し、システム設計から保守サービスまでトータルにカバーする顧客密着型のビジネスで、3層、4層の下請け構造の重圧から脱却したオオノデジタルワークス。国内では開発コストが合いにくいプログラム開発を、ベトナムの若き.NET技術者と組んで採算ベースに乗せる準備を進める。エンドユーザーをしっかりつかみ、下請け時代にはできなかった独自のビジネスモデルの構築に乗り出すことで事業拡大に力を入れる。
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