視点

「複製の定義」についての議論が深まる

2006/02/13 16:41

週刊BCN 2006年02月13日vol.1125掲載

 この1月、文化審議会著作権分科会の報告書がまとまった。報告書は3つの小委員会ごとに章が分かれ、さらに具体的な案件に分かれている。簡単に紹介すると、私が委員も務める国際小委員会では、放送条約への対応(1節)や、アジア諸国との連携強化・海賊版対策(3節)について報告されている。

 読者が興味を持つのは法制問題小委員会での議論だろう。第3節のデジタル対応ワーキングチームの報告は、パソコン業界に大いに関係する。

 例えば、コンピュータ内部のRAMなどへの一時蓄積は複製に該当しないと解釈することができるが、ハードディスクに二重に保存するミラーリングの場合はどうだろう。あるいは、保守・修理、またはパソコンを買い換えるような場合、一時的にファイルを他にコピーしておく際の法的な位置づけはどうなのだろう。こうした実際例や技術との兼ね合いから論点を整理し、複製権が及ぶべきではない範囲について議論されている。

 技術的保護手段の回避については、現在、著作権法では条件を定め禁じられている。この条項は7年前に加わったが、その後、記録媒体も技術的保護手段も多岐にわたる。例えば、データを暗号化(スクランブル)し復号しなければ再生できない、DVDにおけるCSSはどうなのだろう。報告書では結論があるわけではない。論点の整理と、海外の状況が議論の材料として示されているだけである。それでも、このような例を引きながら、技術と法律のバランスを取ろうとしている姿勢が見え、興味がそそられるのである。

 今回の報告書は、私的録音録画補償金制度に関する報道によって概要を知った方も多いだろう。この制度は、DATやMD、DVDなどの録音録画とその媒体の価格に、あらかじめ補償金を上乗せする制度である。今回はこの制度に、ハードディスク型録音機器など対象を広げるかどうかが注目されていた。

 私は、違法コピーの防止には、法と教育と技術のバランスが必要だと常々言っている。パソコンソフトであれば、DRMやアクティべーションなど技術で保護する動きもすでにある。しかし、私的録音録画においては、技術にしても補償金にしてもさまざまな意見があり、今回の報告書においても結論が出たわけではない。今後さらなる技術の動向やユーザーの利用方法なども考慮した議論が必要だろう。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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