視点

日本人の“働き方”が情報化への障害?

2007/06/11 16:41

週刊BCN 2007年06月11日vol.1190掲載

 日本人は働き方にこだわる。日本のモノづくりの代表例であるトヨタ生産システムは、工員の働き方へのこだわりがなければ、成り立たないであろう。

 欧米の経営者たちは、自身の仕事はビジネスモデルの策定とその実現であると考えているようである。これに対して日本の経営者は、ビジネスモデルにはこだわらず、仕事の仕方で競争を勝ち抜こうとしている。したがって、従業員の働き方に対するこだわりを実現することが、経営者の一番大事な仕事であると考えているように思える。

 情報技術は、ビジネスモデルで競争する欧米人が作り出したものである。彼らは働き方へのこだわりがないので、ビジネスに情報技術を持ちこんで、働き方が変わることにこだわりを持たない。このことは経営者自身にもあてはまり、メールを自分で操作することも、エクセルで経営指標を計算してみることも、それが経営者としての活動に効果があると認めれば直ちに実行する。働き方を変えたくない日本の経営者は、こうした作業が必要になっても、今まで通り部下にやらせる人がほとんどである。

 仕事の仕方を変えるには、訓練が必要である。この訓練に欧米の企業は日本の企業の8倍も費用をかけているらしい。経営者も含めて訓練を行うのであれば、こうした数値も納得がいくが、人の移動が多い欧米で、こんなコストをかけて大丈夫かと気になる。これに対する彼らの回答は、半年間でも新しい働き方をしてくれれば、おつりがくるということだそうである。

 情報技術の導入はそれくらいの効果があり、そうでなければ導入する価値がないのであろう。

 日本では、自分の仕事が楽になるなら情報技術の導入を歓迎するが、仕事のやり方を変えてまで、情報技術を導入しようとはしない。そして、「ITは道具であり、道具に合わせて仕事をするのではない」などといって、教育訓練に費用をかけない。しかし、情報技術の導入はビジネスモデル自体に大変革をもたらして、企業活動自体を大きく変えている。このような言い訳は通用しない時代がきている。

 日本ではカスタムソフトが大部分で、パッケージソフトが使われない最も大きな理由は、このような働き方へのこだわりにも原因があると予測される。このこだわりがモノづくりでは大きな効果を発揮したが、情報化においては、これが逆に命取りになりかねない。
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