視点

NGNと若者の意見

2007/10/01 16:41

週刊BCN 2007年10月01日vol.1205掲載

 個人的な話だが、新聞社をリタイヤ後慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)でメディア論を講じている。今年の前期はなぜか、科学技術とジャーナリズムというテーマで講義をしてくれと大学から依頼された。ITの最先端であるNTTのNGN実験を見学するのも学生の参考になると考え、武蔵野市の同社研究所にあるショールームに連れて行った。見学後、リポートを出させた。

 SFCはインターネットの先進的研究で知られるが、学生もまたインターネットに強い関心を持っている。見学中、学生たちから質問がぽんぽん飛び出し、案内の研究所員をたじたじとさせる場面もあった。

 学生のリポートは概ね研究そのものには好意的だったが、現在利用しているインターネット環境とどう違うのか、NTTの囲い込みではないのか、という疑問のリポートがあった。

 NGNが提供する品質保証(QOS)には学生の関心が特に高かった。日頃インターネットのさまざまなトラブルを経験しているせいだろう。その半面、QOSが実現しても、そこで提供されるサービスが現在のインターネットにあるサービスとあまり変わり映えしないことに、多くの学生が不満そうだった。つまり、NGNというすばらしい環境が実現しているのに、実験で見せられたサービスには驚きがない、というのである。

 見学終了後、学生たちとお酒を飲んだ。「先生、あの高品質テレビ会議、大学に入れてください」と4年生。高品質テレビ会議とは、画像が鮮明で直接会って会議しているのと変わらない臨場感がある。「うん、大学にあれば教える側は自宅で講義ができるからいいね」と私。しかし、学生の意見は違った。なぜだと聞くと、「就職活動中、たくさん会社訪問するのが大変なんです。企業があれを就職面接に利用してくれれば、大学で就職面接できるじゃないですか」

 就職活動中の学生は、1日に数社かけ持ちで会社訪問する場合もあり、大学から東京まで出て、会社を訪問するのが一苦労なのだそうだ。地方の学生はもっと大変で、企業側の交通費支給もバカにならないのではないか、という。

 就職氷河期がやっと終わり、学生たちの売り手市場になったとはいえ、学生たちの就職活動の負担は軽くはなっていない。NGNがこうした社会の無用な負担を軽減できるなら、それなりに意味がある。新市場を開拓するには、若者の意見にも耳を傾けることが重要である。
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