視点

有機ELがテレビを変える

2007/11/12 16:41

週刊BCN 2007年11月12日vol.1211掲載

 有機ELとは有機化合物が電気を通すと発光する(エレクトロルミネッセンス=EL)現象だ。それを発光原理とするソニーの有機ELテレビは、薄型テレビシーンを決定的に変える起爆剤になると思われる。それには二つ理由がある。

 第一が圧倒的な高画質だ。映し出された絵を観賞して驚いたのは、高精細感、奥行感が生み出す、異様なまでの臨場感だ。例えばBD-ROM「オペラ座の怪人」でのクリスティーヌの肌のてかりや瑞々しさ、きらめき感、そしてシャドウとハイライトの対比の表現。彼女の大きな瞳の奥にあるキラっとした光の濃密さ。この作品は、数えきれないくらい観返しているが、これほどのものは初めての体験だ。地デジやBSデジタルの放送を観ていても、テレビの後ろ側に現実があり、画面という窓からのぞいているのではないか・・・と錯覚を起こすほどの驚異的な臨場感がある。

 このテレビの画質はこれまでのブラウン管、液晶、プラズマの既成のデバイスでは観たこともないレベルだ。それはブラウン管方式のコントラスト、階調性、ピーク再現性、色再現性のよさと、液晶/プラズマ方式のフォーカス、ユニフォミティのよさを兼ね備えた、画期的なものである。つまり、液晶とプラズマを簡単に追い越しているのだ。

 画素数は、水平960X垂直540だ。垂直画素数が650以上というハイビジョン(HD)の定義から考えると、HDではなくSDテレビであり、トータル画素数はフルHDの4分の1しかない。それにもかかわらず、これほどの精細な絵を表現している理由は、有機ELが自発光デバイスだからだ。もうひとつ、有機ELは史上初の個体発光素子であることも、高精細感の理由だと私は思っている。エネルギー源と発光部が同じデバイスは他にない。

 ふたつめの意義は、形状。XEL1はパネル部の薄さが3㎜しかない。薄いということは、それだけデザインの可能性が広がる。本機は11インチのパーソナルテレビとして登場したが、今後この薄さを活かした壁掛けテレビや、壁にピンナップできるテレビなど、有機ELがもたらすカタチの革命からこれまで予想もしなかったテレビが生まれる。

 まだ生産性の問題があり、大画面化もそれなりの時間がかかるだろうが、これほどの爆発的な魅力を持ったディスプレイデバイスが、ヒットしないわけはない。薄型テレビシーンは有機ELに向かって驀進するだろう。

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