視点

SaaSビジネスの成否を分けるもの

2007/11/19 16:41

週刊BCN 2007年11月19日vol.1212掲載

 SaaSがブームになっている。あちこちでセミナーが開かれ、専門誌に特集が組まれたり、解説本が書店に並んだりしている。しかし、このブームは、あと1年かそこらで終わるだろうと予想している。それは、高い利用料や使い勝手の悪さが原因で失敗するSaaSが出てくるからだ。おそらく専門誌は「SaaS失敗事例」とか「SaaSの落とし穴」といった記事を載せるだろう。

 しかし、それでSaaSが消えてなくなるわけではない。その後しばらくすると第2次ブームがやってくる。SaaSが完全に定着するまでには10年程度の時間が必要で、その間に2度くらいの山と谷があるのではないだろうか。

 では、SaaSビジネスの成否を分けるものは何か。

 それは、そのSaaSがマルチテナント方式であるかどうかだと思う。なぜなら、マルチテナント方式であることによって「規模の経済」が大きく働き、収益性が高くなるからである。

 かつて企業の情報システムは一品生産だった。それぞれの顧客企業のニーズに合わせて設計、開発され、テストを経て保守・運用というプロセスに至る。顧客数が10社から100社に増えれば、売り上げもそれだけ増えるが、コストも同じように増加する。もちろん、経験による経費削減効果はあるのだが、ほとんど「規模の経済」は働かない。

 ところが、パッケージの登場によってビジネスは一変する。それは、ソフトウェアの設計・開発において「規模の経済」が働くからである。パッケージのビジネスは顧客が増えれば増えるほど利益額だけでなく利益率が上昇する。顧客が10社から100社に増えれば、売上高は10倍になるが、コストはほとんど変わらない。オラクルやSAPの売上高営業利益率が非常に高い理由はここにある。

 しかし、パッケージソフトを利用しても、保守・運用のプロセスには「規模の経済」は働かない。

 そこで登場したのが、マルチテナント方式のSaaSである。顧客がどれだけ増えようとメンテナンス対象のソフトウェア(のソースコード)は1種類であるため、顧客が増加すれば売上高は増えるが、コストはそれほど増加しない。つまり、保守・運用プロセスにおいて「規模の経済」が働くのである(シングルテナント方式の場合には、顧客ごとに保守・運用作業が発生するために「規模の経済」が働かない)。これが、SaaSビジネスの成否を分けるのではないだろうか。
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