視点
大学教育の標準カリキュラムJ07に思う
2008/06/02 16:41
週刊BCN 2008年06月02日vol.1237掲載
情報技術の大学教育カリキュラムは68年にACMがComputer Science Curriculum 68を発表したことから始まる。このころから世界中でコンピュータ技術者に対する学部教育が本格化して、日本でも70年に国立の京都大、大阪大、東京工業大、山梨大、電気通信大と私学の金沢工業大に専門学科が設置された。これらの大学は上記カリキュラムに基づいて教育を行ってきたが、その後に設立された情報工学科の多くは、電子工学科や通信工学科が名前だけ情報を名乗って、実態は学科の拡張を行った場合が多かった。
コンピュータ科学を知らなくても情報システムは開発できる。ニュートン力学を知らなくても、立派な建築物を人類は作ってきた。しかし、教育システムが確立した現在、ニュートン力学に基づく「力」の概念を知らずに、建築設計を行なうことはない。
日本の情報産業は、世界で共有している情報技術の基礎概念を知らずにソフトウェア制作を行っている。例えば、彼らはコンパイラを日常的に使っているが、それがどのような原理で翻訳するかを知らない。自分の使う道具の動作原理を知らずに、使い方だけ覚えて作業をしている人たちを技術者と呼びたくないが、これで十分仕事ができて、客も満足しているのだから問題はないというのがIT業界の考え方である。
IT人材の国際化が進んで、米国でもインド人の台頭が著しい。現役の技術者がJ07のコア部分さえ知らずに仕事をしていることが、日本のIT業界の根本的な問題であると思う。今、彼らに基礎教育を行わなければ、数年内に失業の危険に晒されるであろう。一方、日本語で外国人が仕事をするのも簡単でない。日本の社会全体が、情報技術で国際水準から大きく遅れる危険が迫っているように思われる。
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