視点

企業のITは「雨降って地固まる」

2009/09/14 16:41

週刊BCN 2009年09月14日vol.1300掲載

 世界同時不況を誘発した「リーマン・ショック」からほぼ1年。この間、国内企業のIT投資は「延期」「中止」が続出。この影響をまともに受けた国内IT業界は、これまで経験したことのない塗炭の苦しみを味わっている。ITベンダーは「コスト削減」の大合唱。しかし、急場凌ぎだったとはいえ、「コスト削減策」の提案は、同時にシステム提供側のITベンダーに「変わらねば」という変革の機会をもたらした。

 “不況の大波”が襲う前、クラウド/SaaSの“小さな波”が押し寄せてきていた。だが、この波に乗ろうとするITベンダーは少なく、様子見が大半だった。ところが、今回の不況で様相が一変。ユーザー側はコスト削減の観点から、ITは「所有」ではなく「利用」で賄えることに気づいた。ユーザーの要望に対応してシステム提案するITベンダーもこれに呼応して、ビジネスモデルの変革を考え始め、クラウド/SaaSは突如として“ビッグウェーブ”に変貌した。

 国内ITベンダーは、「手作り」が好きだ。SAPジャパンによると、同社ERP(統合基幹業務システム)のカスタマイズ比率は、米国の「1」に対し日本は「1・8」になるという。また、手離れがよくて「売り切る」スタイルを好む。共通しているのは、初期投資を積み上げていくモデルということだ。しかし、この旧来のビジネスモデルが、不況とともに収縮に向かっている。

 不況は、さまざまな教訓を生んだ。ITベンダーが作り出したITインフラをユーザーに使ってもらい、満足を得て初めて対価を得られるのだということが理解されるようになった。従来はどうだったかといえば、ユーザーの要求に精一杯応え、そのシステムが本当にユーザーにとって有効なのかも確認せず、短兵急にITを押しつけ続けてきた。このことが、「部分最適」にとどまり「全体最適」にできなかった要因になったといえよう。

 日本IBMによれば、国内企業のITコストに占める運用保守費の割合は約7割。ユーザーは導入したシステムの「お守り代」に経費を取られ、不要なシステムの「棚卸し」もしない。無管理状態だから、大事が起これば修復にまた費用がかかるという悪循環を生んでいた。これが国内企業のITの実状なのだ。

 国内ITベンダーは「不況」で変革を余儀なくされ、この先も茨の道が待っている。一方、ユーザー側のITは雨降って地が固まっていくともみることができる。
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