ウェブで取引先を増やす

 製造業を中心に中小企業が集積する東京都大田区。不況の影響で、事業不振に苦しむ業者が多いといわれる。そんななか、加工業者の安久工機(田中隆社長)はITコーディネータ(ITC)の指導を仰ぎ、ウェブを使って取引先を順調に増やしている。

 同社は、「試作開発」に長けており、業界で名を馳せている。大学など研究機関からの依頼で開発した機械式「血液循環シミュレータ」など、人工心臓関連を中心にした試作開発力が評価され、経済産業省から世界トップレベルのベンチャー企業に選定された。また、安全保安用品のカラーコーンを折り畳めるように開発した「パタコーンNN型」は、警察資器材コンクールで長官官房長賞を受賞。これまでに3万5000本を販売した実績をもつ。ほかにも、視覚障害者が自分のイメージを確かめながら絵を描ける「触図筆ペンユニット」などを開発。田中務営業部長は、「世の中にないものを開発できることが強み」としている。他社に真似できない開発力で、大学や大手メーカーなどを取引先として確保した。

 このような同社が課題に掲げていたのが、「設計者の不足」(田中部長)である。従業員6人で、そのうち3人が設計・開発を担当。取引先からの依頼にフルパワーで対応しているものの、「人数が少ないため、限界がある」と打ち明ける。収益アップによる人員増強を図ろうとしたのだが、営業担当者は田中部長のみ。新規顧客の開拓にも限界がある。ジレンマに陥っていた2005年、ITCの田中憲之氏と出会ったのである。

 田中ITCは当時、「モノづくり応援隊in大田区」というITCによる大田区の中小企業を支援する活動に取り組んでいた。この活動は、08年6月にNPO(特定非営利法人)として新しいスタートを切っている。支援のために30社を超える企業を訪問している際、安久工機と出会った。事業内容を聞き、「非常に優れた開発力をもっている。安久工機さんがさらに元気になれば、大田区全体を盛り上げることにもつながるのではないか」と、田中ITCは考えた。そこで、経営革新を前提にコンサルティングを手がけることになった。

 経営戦略を策定し、社内外の環境を念頭に置いたSWOT分析を実施したほか、設計者を増員するために必要となる売上高の増加額を設定。売上高拡大を果たすため、ウェブの活用によって試作開発物件を必要とする企業を新規開拓するプロモーションの実施までたどり着いた。ホームページについては、「もともと何かしらの宣伝になればと軽い気持ちで立ち上げていた」と田中部長。以前は、トップページをシンプルなデザインにしていたのだが、「さまざまなユーザーが訪れるのがウェブだから、アピールしたいものはトップページに掲載する」(田中ITC)といったコンテンツ満載のデザインに改善。新規顧客が獲得できるようになった。(つづく)

ITコーディネータとの関係について、安久工機の田中務営業部長は「ITコーディネータは“医者”で、当社は“患者”のようなもの」と、絶対的な信頼を寄せている


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