ASP→SaaS→クラウドへの変遷。意外と知らない人は多い。これら“バズワード”がどう生まれ、変化し、今日の「クラウド・コンピューティング」が主流になったかを知ることは重要だ。かみ砕いて説明する。

WBC派が主導権

 10年前の「ASP」や数年前の「SaaS」、そして昨今の「クラウド」と、次々と現れる目の前の木々ばかりを眺めていると、それらの木々が生い茂る森の彼方への道を見失ってしまう恐れがある。今回は、この10年間にはやった三つの“バズワード”の回りで何が起きていたのか振り返ることで、徐々に拓かれつつある情報産業のサービス化への道を一部たどってみることにしよう。

 FutureLinkをご存知だろうか? Citrixのシンクライアント技術を使って、世界で最初にマイクロソフト・オフィス・デスクトップ製品をサービスとして配信した企業である。そのFutureLinkが、自社サービスを市場に認知させることを目的に、CitrixとともにASP啓発団体のASPIC(ASP Industry Consortium)を設立したのが1999年のことである。

 当時、Citrixは製品をSBC(Server-Based Computing)と位置づけてWBC(Web-Based Computing)との違いを訴求するマーケティング戦略を採り、SBC寄りのASP啓発活動を行っていた。この事実から、オフィス・デスクトップ・アプリケーションをシンクライアント技術で配信するサービス・モデルとして市場に紹介されたのが、ASPの始まりだといっていいだろう。

 しかし、ASPIC設立後、内部でSBC派とWBC派の間に確執が生じ、やがてASP啓発活動の主導権はWBC派に奪われてしまう。SBC派のFutureLinkやCitrixが主張したASPのメリットが、デスクトップ・アプリケーション管理を中心としたTCO(総所有コスト)の削減であったのに対し、WBC派は業務用ウェブ・アプリケーションを中心とするサービスのオンデマンド提供と導入の容易さ、低廉な価格といった点を主張するようになる。このような経緯を経て、ウェブ技術によりアプリケーションをオンデマンド配信するASPというサービス・モデルが市場に定着したのだ。

 やがて、WBC派のなかで、CRM(顧客情報管理)の分野で頭角を現したASPがSalesforce.comである。1999年設立のSalesforce.comは設立当初、自らをASPと呼んでいたが、事業が軌道に乗りだした2004年頃から、自らをSaaSと呼ぶサービス・モデルを市場に提示し、マルチテナンシーやカスタマイズの可能性などで、ASPとの違いを際立たせる差異化戦略を採った。

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