定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~

<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第7回 顧客との対面が目的化してしまわないように気をつけよう

2010/12/03 20:29


 「顧客の声に耳を傾ける」というのは、ユーザー企業の発声をひたすら待つということではなく、ITを提供する側がユーザー企業に「気づき」を与えながら、丁寧にその反応を汲み取っていくことにほかならない。この「気づき」の代表的な手法の一つが、本連載の第4回で紹介した「課題チェックシート」だ。

 こうした傾向は、実際の調査結果にも表れている。図2は、前出の調査で年商500億円未満の中堅・中小企業に対して「業務システムの委託先/購入先の『提案/販売時における評価』で重視する項目」をたずねた結果である。ユーザー企業がIT活用の提案を受けるとき、提供する側に力を入れてほしいと考えていることに相当するものだ。

業務システムの委託先・購入先の「提案・販売時における評価」で重視する項目(三つまで選択)

 「要件に合致した提案」や「ニーズの把握や理解」といった提案力・理解力と、「システム構築力」といった実践力が求められていることがわかる。一方、「コミュニケーション」を挙げるユーザー企業は1割程度しかない。コミュニケーションはあくまでも手段であり、それが目的化してしまわないように注意しなければならない。コミュニケーションの中身が大切であると言い替えてもいいだろう。

 では、どうすればいいのか。ユーザー企業と対面の場を設けた際に有効なアプローチとしては、すでに述べた「課題チェックシートによる気づき」がある。それについては第4回で詳説したので、ここでは「気づきを得られた後の提案段階における留意点」に触れておきたい。

 クラウド活用で得られるメリットとして、「処理に必要なITリソースを柔軟に増強できる」ということがある。これを例に考えてみよう。多くの場合、「従来はピーク時に合わせた過剰なシステム投資をするか、ピーク時の処理低下を許容するかのどちらかしかありませんでした。ですが、クラウドなら柔軟な対応が可能です」といったアピールになる。

 しかし、ユーザー企業側は、自社の業務におけるニーズと、このフレーズを結びつけることはできないので、ユーザー企業の業種や業態を踏まえて噛み砕かなければならない。例えばホテルなどの宿泊業では、直近の稼働状況や競合の動きをもとに、宿泊料金を頻繁に変更する。ネット予約が多く利用される昨今では、「採算を確保しながら、最も手頃な価格をいかにすばやく算出するか」が、競争力の大きな源泉でもあるわけだ。

 となれば、先のクラウドのアピールは、「弊社サービスを利用すれば、競合よりもすばやく正確な宿泊料金の算出が、低コストで実現できます」ということになる。ネット販売に進出しようとしている小売業の場合なら、「商材の少ない初期段階から、ビジネスが軌道にのってアイテム数やアクセス数が増えた段階まで、スムーズにレベルアップが可能です」などといったかたちになるだろう。気付きを得た後の提案段階では、ユーザー企業の言葉でコミュニケーションすることが重要なキーポイントとなってくる。

 「とにかくコミュニケーション量を増やすのが大切」という誤解や、上記のユーザー企業の言葉に噛み砕けていないクラウドのアピールにはある共通点がある。いずれも「手段が目的化している」ということだ。これは、ITという技術を提供する側が陥りやすい落とし穴でもある。

 ITを提供する側がユーザー企業に与えられるものは、あくまでも「手段」だ。しかし、「ユーザー企業の視点に立つ」ということは、その「手段」を選ぶ「目的」を意識することにほかならない。コミュニケーションの量ではなく、ユーザー企業に気づきを与え、彼らの言葉で対話するということを意識するだけでも、ユーザー企業との関係は大きく変わってくるのではないかと考えている。

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