視点

専門高校が果たす役割を見直そう

2012/06/14 16:41

週刊BCN 2012年06月11日vol.1435掲載

 大学でも教える身からすると、不可解なことがある。なぜ高校は、普通高校だけがいわゆる一流? 大学進学校となり、農業や商業や工業の専門高校がそのような大学との間に距離を置かされているのか。今、大学が新しい社会的知識の実践的創造を求める時代にあって、専門高校の教育貢献への期待は大きい。それに応える知性が、安心・安全で高品質な農産物を創造する農業であり、世界と戦う新産業を創出するビジネスであり、デザインでイノベーションを起こすものづくりであるとしたら、専門高校こそが次世代を育成する最初のステップとして重要な存在となる。

 岐阜県立大垣商業高校の情報科は、その意味で、非常にユニークな授業を展開している。われわれが運営するソフトピアのモバイルコアという情報空間に、情報科の高校生たちが自転車でやって来て、この場所でiPhoneアプリの開発に挑戦している。もちろん、担当の広瀬先生が授業を指導するが、時にはソフトピアのモバイルコアの専門スタッフとか、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の教員も、気楽な友達感覚で高校生のアプリ開発を支援している。たぶん、普段の授業では味わえない新鮮な刺激が与えられるので、高校生たちはこの先端の情報環境に置かれて、気分としてはプロのアプリ開発者に変身しているのだろう。ここには授業を超えて、自分たちで何かを創造するぞと覚悟させる何かが隠されている。高校生のコメントをみても、プロのベンチャーたちが働く現場に身を置いて、プロから直接アドバイスをもらうことに、大きな刺激と喜びを得ていることがわかる。学生も先生たちも、完成したアプリを商品化までもっていきたい、そのためには著作権のことを調べないといけないなどと、真剣にビジネス化を考えていたりして、頼もしい。わずか10分の自転車での移動が高校生の意欲を一挙に変えている。このような環境こそが新しい「実践知」の学びスタイルを誘発するのだろう。

 学校教育はもっと外部との連携や融合を進めて、従来の教育にはない新鮮で多様な試みに挑戦すべきである。とくに専門高校の場合は、リアルな社会との接点を強くもつ知識を学ぶ場所なのだから、この実践知のスタイルを推進すべきである。16歳の段階から自分がプロになるスタートを切ることができ、自分のやる気で学ぶ喜びを感じることができる、そんな教育システムを実践してもらいたい。そこにこそ、未来の教育がある。
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