視点

能力のある“隠れた才能”を世に出す仕組み

2012/02/23 16:41

週刊BCN 2012年02月20日vol.1420掲載

 「北上伸江」という名前を聞いても、知っている人は、たぶんほとんどいないはず。その彼女が、「色彩の日常」という個展を岐阜県のIAMAS産業文化研究センター分室で開催中、ということを知ったとしても、「行ってみたい」と思う人もあまりいないだろう。

 IAMASのことをよく知っている人ならば、「もしかしたら、これはいいイベントなのでは」と直感するかもしれない。そうはいっても、普通ならば、多くの人は通りすぎるだけだろう。そこでさらに、作品のメインは<Scene 駅・夜・街>で、「日常のなかで作者が見つめた一つの出来事を、六つの視点から再現した映像のインスタレーション」であり、「映像をデジタル処理によって低解像度に落とし、紙に小さく出力したものをベースにアニメーションを描くことで、絵画と映像の間の表現を探求している」という説明を加えれば、「すごいかも」と思ってもらえるかもしれない。

 彼女が優秀なアーティストであるということは、まだ若いにもかかわらず、たとえ小さな展示であっても、1か月間も開催される事実をもってすれば、十分に理解していただけると思う。ただ、ここでいいたいのは、彼女のアーティストとしての才能が豊かだ、ということではない。今の貧しい社会文化状況の下では、このようなアーティストを無名のまま葬ってしまいかねないので、変革すべしと訴えたいのだ。時代の先端を走っているアーティストを、無名なままで放置しておくのではなく、その才能を社会の文脈のなかに落としこむ社会イノベーションが求められているのだと思う。

 新産業とか雇用の創出というお題目は、行政当局や多くの評論家たちによって、声高に叫ばれているが、その具体的な方策なり実践という次元になると、まったく声が聞こえてこなくなってしまう。それは、時代をどうやって切り開いていけばいいのか、その具体的な方向性がわからないからだ。しかし、すでに多くのアーティストによって提示されているにもかかわらず、そこが読めない社会サイドが、既存のメディアに頼りきってしまい、新しいメディアを活用したビジネス化や社会化を実践しようとしないからである。

 一度、彼女の作品をYouTubeで、<Scene 駅・夜・街>のキーワードで検索してみていただきたい。この才能をいかに社会化すればいいのか、きっと真剣に考えるきっかけになると思う。
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