下請け案件を中心とした受託ソフト開発からの脱却を目指し、自社商材の展開が実を結びつつある石川県の中小ITベンダー。石川県編の最終回では、金沢出身のSIerであるシステムサポート(小清水良次社長:石川県情報システム工業会副会長)や、これまで紹介してきた企業の事例を踏まえて、他地域のITベンダーが自社商材を展開するためのポイントを探る。(取材・文/真鍋 武)
赤字覚悟で臨む気概

システムサポート
小清水良次社長 システムサポートは、「Oracle Database(DB)」のシステム構築を中心とするSI事業を根幹に据えつつ、近年は自社商材の展開に力を入れている。同社の売り上げは順調に拡大しており、リーマン・ショック後も年平均で約15%の成長率を維持。2012年度(13年6月期)の連結売上高は、過去最高の72.4億円になる見通しだ。
小清水社長は、「東京支社が年次で約30%成長しており、当社の業績を引っ張っている。しかし、下請け案件の多い金沢本社では、前年度の業績を維持するのがやっとだ。下請け体質に依存したままではいけない。そこで当社は、ITベンダーからの下請けだったSI案件を、後々にエンドユーザーとの直接取引につなげるようにしている」と語る。
技術者の能力向上に努め、オラクル製品の技術者育成に貢献した企業を表彰する「ORACLE MASTER Platinum Award」では、2012年に全国4位を獲得。また、ITベンダーからの下請け案件でエンドユーザーのシステムを構築する際には、要件に従ってシステムを構築するだけでなく、積極的にエンドユーザーに提案を持ちかけている。これらによって、エンドユーザーからの評価・信頼性を高めて、後々の直接取引につなげている。「現在は約50%がエンドユーザーとの直接取引だが、3年後には75%までに引き上げることが目標だ」(小清水社長)としている。
また、エンドユーザーとの直接取引は、案件の単価が下請けと比べて高い。大手企業との直接取引の実績ができれば、それを事例として別のエンドユーザーに提案しやすくなるというメリットも生まれる。システムサポートは、直接取引で得た収益を自社商材の展開に向けた投資に回している。「住宅建築業・リフォーム業者向けの工事情報管理システム『建て役者』が、12年度には前年度比42%増の約200社への納入実績を上げるなど、順調に成長している。また、iPadを活用して見積書を作成できるアプリ『パッと見積』は、販売開始から4か月で155件のダウンロードがあった」(小清水社長)と好調ぶりを語る。
しかし、自社商材の販売実績が伸びているとはいっても、ここまでたどり着くのは容易ではなかった。小清水社長は、「自社商材の展開は、開発して、販売ルートを確保してなどと、実績が出てくるまでに相当な時間がかかる。赤字が続いても遂行する継続的な体力と継続的な投資力が求められる。この“死の谷”を乗り越えて初めて、製品展開に成功できると思う」と指摘する。
ニッチのなかでも差異化を進める
自社商材の展開を望みつつも、実現できない地方IT企業は多い。こうした企業は、「新たな事業を展開することよりも、今とにかく食いつなぐことで必死。単価の低い案件でもやらざるを得ない」と口をそろえる。“死の谷”を乗り越えて、自社商材の展開に成功するための第一歩は、システムサポートのように、受託ビジネスで下請けに甘んじるのではなく、ユーザーからの元請けになることに努めることかもしれない。
自社商材の開発にあたっては、市場の選定が重要だ。一度開発した分野のシステムであれば、ノウハウが蓄積されているので、これまでに受託案件で経験してきた分野のなかから市場を選定することが基本となるだろう。そのなかで、参入障壁が高く、市場が安定している、もしくは成長しているニッチな分野に狙いを定めることが有効だ。ただ、ニッチ市場製品を展開していても、競合が出てくる可能性は否めないので、それでも勝てるようにする工夫が必要だ。例えば、「どっと原価」を提供する建設ドットウェブ(金沢市)のように、パートナーが提供するシステムと連携できる機能を搭載して、容易に販売パートナーを獲得できるようにしておくことが、販売網の拡大につながる。
営業・マーケティング面では、自治体や県内組織の支援が欠かせない。それも、単純に補助金制度を設けるだけでなく、ISAや石川県産業創出支援機構(ISICO)のように、営業方法を伝授するセミナーを開催したり、地場企業を中心としてイベントを開催して、県外に対してアピールしたりするなどして、地場ITベンダーの販売力強化を図る必要がある。
受託ソフト開発から脱却し、自社商材の展開に成功するためには、赤字覚悟で突き進む気概が必要だ。製品を開発した後には、自治体や地場組織の支援を受けながら営業ノウハウを蓄積し、パートナーを戦略的に拡充することで販売網を拡大していく。このことが、成功のポイントといえる。

次回は、OSSの活用やサテライトオフィスの誘致が盛んな徳島県のIT産業の動きを追う