国内のSI市場が縮小するなかで、システム開発を中心に事業展開する受託開発会社の経営環境の厳しさが増している。安倍政権の経済政策で景気が上向き、SI案件も増え始めているが「一時的なこと」と考えたほうがいい。新たな事業・商品を創出しなければ、再編・淘汰の波に飲み込まれてしまう。この連載では、厳しい市場環境を打開して、活路を見出そうと果敢に挑戦する大手ITベンダーの姿を追う。第1回は、日本ユニシスを取り上げる。
目指すは成果報酬型・共同プロジェクト型
「転換を求められる時期は予想より早く訪れる」。日本ユニシスの平岡昭良・代表取締役専務執行役員は危機感を強めて、新しいビジネスモデルへの転換を急いでいる。その将来の姿を示す事例がある。2012年7月に発表したイオングループ向けECシステムだ。日本ユニシスがシステム基盤の構築・運用を負担して、ECから得られる収益をシェアする成果報酬型のビジネスモデルだ。共同プロジェクトといえるもので、平岡専務は「いちばんダイナミックな事例」とし、市場開拓の先駆的事例に位置づける。
イオングループ以外のこうした事例も増えている。ヤマダ電機のショッピングモール、ティーガイアのギフトカードモール、ワールドの顧客管理クラウド型サービス、全日本空輸のロケーション・メディアサービスなどだ。これらに共通するのが、環境変化に柔軟に対応できるフロントエンドシステムということ。しかも、会計などバックエンドシステムと同等のミッションクリティカル性を要求されるものである。
例えば、ネットスーパーのECシステムが停止したら大打撃を受けるだろう。消費者を囲い込むためには、コンテンツの頻繁な更新、新しいサービスを次々と生み出す必要もある。ソーシャルメディアを駆使した消費者との新たな関係づくりも求められる。こうした広告宣伝や販売促進などを含めた企業の予算は、デジタル化に振り向けられつつあり、IT企業のほか、広告代理店や印刷会社などが市場の獲得に乗り出している。
IT企業は、ITシステム構築力とプラスアルファで勝負しなければならない。ユーザーのIT環境には、オンプレミスのレガシーなシステムがある。プライベートクラウドやパブリッククラウドも利用する。その効果を最大化するために、市場にある最適なサービスや機能を組み込む。必要なサービスや機能がなければ、新たに開発する。ただし、「システムを開発し、ユーザーに納めたら終わりというプロジェクト・セントリックな考え方は通用しない。これからは、システムを納めた時点がスタートになる」(平岡専務)。ITの価値は、ユーザーに言われた通りのシステムをつくり上げることではなく、業績や事業の改善、拡大に移っている。つまり、IT企業はITシステムの構築力ではなく、IT投資効果を問われることになる。フローの受託開発から大きな収益を確保できる時代は終わりを告げたのだ。
システム財産のストック化に着手
そんななかで、日本ユニシスはECなどフロントエンドシステムの立ち上げを計画するユーザーに、「こんな機能なら、3か月で稼働できる」と提案する。さらに、「こんなことをしたらどうか」とビジネス領域に深く関与し、商品のプロモーションを支援することさえある。
そのために、日本ユニシスは数年前からシステム財産のストック化に着手した。経験やノウハウを知的財産として蓄積し、それらを再利用したり、最適なハードやソフト、サービスを組み合わせたテンプレートを用意したりする。その一方で、SEに再利用の考え方を浸透させてきた。システム構築の費用や時間のムダを減らし、早く安く提供するためだ。再利用には、ソフト部品から運用環境、ビジネスプロセスまである。例えば、再利用でつくり上げた通販会社向けECシステムの効果やノウハウを、さらに製造業へと横展開していく。ストックはどんどん増える。
こうした取り組みは、システム構築を請け負うことを目的とする伝統的なIT企業には難しいことでもある。IT活用の効果を出すことをユーザーの責任としてきたからだ。日本ユニシスはそこに踏み込むため、システム財産のストック化や再利用を実行するとともに、投資効果をモニタリングしてきた。ユーザーへの聞き取りもする。加えて、「どんなビジネスを立ち上げて、どんな効果を期待しているのか」といった企業のIT活用と効果に関する一種の“プロファイリング”を始めた。企業の特性などから、これからしたいことを推論するわけだ。
こうしたことを積み重ねることで、期待する効果を発揮するIT基盤やクラウドなどのサービスを組み合わせて提供する“サービス・(ブローカー)プロバイダ”になる。それを価値に変える際の課金モデルが月額料金や従量制であったり、成果報酬であったりする。もちろんSIのこともある。そんなことを挑戦できる企業環境と人材育成が、構造転換のカギを握っている。
【今号のキーフレーズ】
「IT企業はITシステムの構築力ではなく、IT投資効果を問われることになる」