NTTデータは、情報システムの設計から構築、試験の各工程に自動化ツールを積極的に採用している。岩本敏男社長は、2013年5月に開いた2012年度(13年3月期)決算説明会で、「労働集約から知識産業に転換する」と自動化の狙いを明かした。数年後には、新規の全プロジェクトに自動化ツールを適用する計画だ。
自動化ツールの適用は200件以上
自動化ツールの適用事例は、11年度が99件、12年度が160件とまだ少ないが、小規模なシステムから大規模なミッションクリティカルシステムへと適用範囲を広げている。13年度には218件のプロジェクトで活用する計画で、15年度には12年度に比べて約60億円の原価低減を狙う。
冨安寛・技術開発本部ソフトウェア工学推進センタ長によると、NTTデータが自動化ツールを本格的に使い始めたのは2009年頃。ITベンダーごとの異なる開発環境を使って、ユーザーの細かな要求に応えて開発する時代から、オープンシステム時代に移り、Javaフレームワークや.NETフレームワークといった新しいアプリケーションソフトの開発環境が登場した時期だ。
同社は年間約1000件の開発プロジェクトをこなしているが、その多くが既存システムの改修・増強プロジェクトだ。こうしたシステム更新の場合、ユーザーは「前よりも安くつくってほしい」と要望し、パッケージを選択するケースが多い。開発期間を従来の2分の1~3分の1に短縮し、他社に先んじて新しい機能をリリースしたいからだ。
NTTデータは、こうした要望を受けて、スクラッチ開発でも、パッケージ並みの開発期間を実現することを考えた。社内の開発方法を統一して、開発速度を倍速化することに挑戦する。大量の開発者を投入して納期の厳守や品質を確保する開発方法も見直し、「開発のカルチャーを変え、若い人が就職したい産業にする」という岩本社長の考えも実現していく。開発期間の短縮は、グローバル市場で戦ううえで、海外ITベンダーと差異化を図る有効なツールにもなる。
15年度に開発工数を半減
開発の自動化は確実に進んでいる。例えば、ある金融機関のミッションクリティカルシステムの開発では、自動化ツールを活用したことで、詳細設計から結合試験までの工期を30%削減した。自動化ツールを適用した全プロジェクトをみても、設計・構築・試験の各工程で、適用前に比べて平均26%、開発期間の短縮に成功しているという。
NTTデータの自動化戦略は、開発のプロセスだけにとどまらない。必要な人員をどう割り振るのか、作業の終わった人員を次のプロジェクトにどうアサインするのか、といったプロジェクト管理の自動化も進めている。
冨安センタ長は「ユーザーが何をしたいのか、どうすればそれを実現することができるのかに集中する」という。この意味は、要件定義や設計、構築、試験の工程のなかで、開発や試験に配置した人員を減らし、要件定義や設計により多く人と時間を割けるようにするということだ。このことが、労働集約から知識集約への転換だという。
そのために、老朽化したシステムの再生にも取り組む。IT投資額の70%が保守運用に割かれているなかで、新規投資の割合をいかに増やすかは、ユーザーにとって大きな課題。例えば、COBOLなどで書かれた古いシステムを自動解析し、新しい言語でつくり直す。そこにも、自動化ツールを適用する。「設計書を書き直す作業は10分の1のコストになる。開発全体のコストはどの程度削減できるかについてはまだわからない」(冨安センタ長)ものの、生産技術の改善は、開発の効率化を間違いなく進める。
もう一つは、グループ会社の開発資産を再利用する仕組みが要る。ソフトの部品化などを推進するとともに、再利用の普及展開方法を開発する。どこに、どんな資産があるのか、容易に検索できる「アップルの『App Store』のようなもの」(同)を考えている。
NTTデータはこうした自動化と再利用で、最終的に開発期間を4分の1にする計画だ。まずは新規プロジェクトの100%に自動化ツールを適用し、次に再利用の仕組みを定着させる。目標達成は15年度以降になりそうだが、受託ソフト開発会社は、ビジネスモデルの転換に迫られることになる。
【今号のキーフレーズ】
自動化・再利用の仕組みを積極的に使い、労働集約型産業から脱皮、SIを知的産業にする