自治体のIT利活用が目立つ佐賀県だが、地場のITベンダーも負けじとIT産業を活性化するための新たな施策を打ち出している。佐賀県ソフトウェア協同組合が今年6月に設けた「ICTプラットフォーム研究会」では、県と協力して、地元中小企業の経営革新に向けたデータ活用支援や、製造業向けの業務ソフト開発基盤の普及などの取り組みを推進していく。(取材・文/真鍋 武)
生産性の向上から経営革新へ

佐賀県ソフトウェア
協同組合
菰田秀三理事長 人口、面積、県内総生産ともに全国40位以下となっている佐賀県は、IT産業も小規模だ。経済産業省の特定サービス産業実態調査(2010年)によると、佐賀県内にあるソフトウェア業の事業所は19で、情報処理・提供サービス業は21と他の地域に比べて少ない。
佐賀県のIT企業組織である佐賀県ソフトウェア協同組合(SSCA)では、このうち18社が会員となっている。菰田秀三理事長によると、「会員企業は、受託ソフト開発企業やウェブ制作に強い会社、研修事業を行っている会社などさまざまだが、自社パッケージを開発している企業は少ない」という。SSCAでは、およそ20年前から自治体のシステム構築や実証実験などの案件に対する共同受注事業を展開してきた。しかし、「近年は案件の数が減ってきており、SSCAとしても旧来のやり方に依存していたのでは、発展はない」(菰田理事長)と危機感を募らせている。SSCAの会員企業、佐賀IDCの森木武事業統括本部本部長は、「佐賀県内のITベンダーで、倒産したという話は今のところ聞いていないが、受託の案件が目減りしているのは事実。市場はじり貧といったところだ。これからは、自社商材をもって各社が自分たちで販路を拡大していく必要がある」とみている。そこでSSCAは、今年6月、佐賀県のIT産業を活性化するために「ICTプラットフォーム研究会」を立ち上げた。

佐賀IDC
事業統括本部
森木武本部長 研究会の活動は主に二つ。その一つは、県内の中小企業を主要ターゲットとして、これまで企業が蓄積してきたデータの分析・活用を支援していくというものだ。佐賀県の新産業・基礎科学課などの協力を得て、県内にBI/BAツールの活用や、データに基づく経営コンサルティングができる人材を育成する。そして、それらの人材が地元の中小企業を巡回し、民間企業が保有するデータを分析して、最終的には経営革新につなげていくというサービスを検討している。
SSCAの副理事長で、佐銀コンピュータサービス営業部の城島浩文部長は、「佐賀県の企業の大多数は、基幹系システムはすでに導入済みだ。しかし、そうした企業が長年かけて蓄積してきたデータは、まだほとんど活用されていない。これからは、システムを導入することを前提としたビジネスは時代遅れだ。生産性の向上だけでなく、情報系のツールを活用した企業の経営革新につなげるためのデータ分析が新たな活路となる。その需要はあるはずだ」と説明する。ビッグデータやデータサイエンスが近年注目されているなかで、地方のITベンダーが一丸となって、地域企業のデータ活用を支援しようとする取り組みはまだない。SSCAは、その先進事例をつくろうとしている。
製造業向け開発基盤の先進地域に

佐銀コンピュータ
サービス営業部
城島浩文部長 研究会の活動のもう一つは、産業技術総合研究所が配布している無料の製造業向け業務ソフト「MZプラットフォーム」の普及だ。およそ200のコンポーネントを組み合わせることによって、ITに詳しくない中小製造業の担当者でも、短期間・低コストに業務用アプリケーションを開発することができるソフトである。SSCAでは、「MZプラットフォーム」の技術者を県内に増やして、地場IT企業が製造業からコンサルティングや、運用支援、カスタマイズなどの案件を獲得できるようにしていこうとしている。
菰田理事長は、「『MZプラットフォーム』は、個別のIT企業が積極的に事業として展開しているケースはあるが、IT企業組織を挙げて推進しているところはまだない」という。SSCAでは、「MZプラットフォーム」の先進地域となることで、県内の製造業だけでなく、県外の製造業からも案件を獲得していきたいと考えている。
こうした「ICTプラットフォーム研究会」での新たな施策は、SSCAと県との深い協力関係によって生まれたものだ。例えば、「MZプラットフォーム」に関していえば、もともとSSCAは産業技術総合研究所と深い関係があったわけではない。2012年5月に、佐賀県と産業技術総合研究所が太陽光発電の共同研究を軸とする協定を結んだことがきっかけとなって、SSCAは「MZプラットフォーム」の技術支援などに関する協力関係を結ぶことができた。「佐賀県は市場が小さいだけに、県や民間企業と結びつきは他の地域よりも密接」(森木本部長)。このことが功を奏している。
SSCAは、7月25日、会員企業向けに「ICTプラットフォーム研究会」の説明会を開催した。これまでは有志の数社が推し進めてきたが、今後は複数の参加企業を募って、具体的な活動内容を策定していく予定だ。まだ他地域にはない、地域のIT企業組織としての新たな取り組みの芽が、確かに育ちつつある。

写真提供:一般社団法人 岐阜県観光連盟 次回は、IT産業の集積地「ソフトピアジャパン」で有名な岐阜県の動きを紹介する