ICTの利活用を強力に推進している佐賀県のなかでも、とくにユニークな取り組みを行っているのが武雄市だ。市のホームページをFacebook上に完全に移行したのをはじめ、市立図書館の運営を民間企業に委託して、図書館システムと「T-ポイント制度」を全国で初めて連動させた。また、農業クラウドの実証実験を進めるなど、地域活性化を図っている。(取材・文/真鍋 武)
市民との交流が活発化

フェイスブック・
シティ課
フェイスブック係
下村英史主任 武雄市は、人口約5万人、面積約200km2と、佐賀県のなかでとくに規模が大きい自治体ではない。しかし、ICT関連のユニークな取り組みは、他の自治体の注目を集めている。自治体のIT関係者の間では、「武雄市を知らない者はモグリ」といわれるほどの知名度を誇る。
では、何がすごいのか。その代表がFacebookの活用だ。Facebookを活用している自治体は少なくないが、武雄市の場合、市のホームページを完全にFacebook上に移行している。これは、全国初の試みだ。
フェイスブック・シティ課フェイスブック係の下村英史主任は、「目的は、市民とのコミュニケーションを活性化すること。2011年の8月に完全に移行したが、現在、閲覧数は以前使用していたホームページの約60倍に増えている」と効用を語る。Facebookページの「いいね!」数は、すでに約2万6000を超えた。これは、他の自治体のFacebookページと比べても群を抜いている。「以前のホームページに比べると、情報を簡単に更新しやすい。そのおかげで1日に4回は投稿できている。投稿に対しては必ずコメントがあって、市民からの反応も温かい」と、下村主任は満足げだ。
さらに、Facebookに移行して、ホームページの運用費の削減を果たしている。年間で約200万円ほどコストを削減できたという。このFacebookへの移行は、サイオステクノロジーのグループ会社であるSIIISが手がけた。
とはいえ、公共のホームページをFacebookという外国の民間企業のプラットフォーム上で提供することに対しては、当初は公平性やリスクの面から批判があった。このことについて下村主任は、「ホームページの移行先として、Facebookでなけれならない理由はなかった。たまたま今一番注目されているのがFacebookで、それを市の広報活動でうまく利用しただけ。必要があれば、今からでもすぐにホームページを移行する準備はできている。批判もあるが、住民からは肯定的な反応が圧倒的に多い」と説明する。実際、こうした活動が注目を浴び、現在、市には他の自治体関係者など、毎月30~40件の視察があるそうだ。
利用者が急増した市立図書館
教育関連でも、ICTの利用を積極的に推進している。佐賀県では、県が主導していることもあって、全4校の県立中学校と全8校の小・中・特別支援学校では、タブレット端末を全校生徒向けに配備済みだ。しかし、市町村では、そこまで到達していない地域が多い。そんななかで武雄市は、来年度中に市内の小・中学校の全生徒約4000人にタブレットを配備することを計画している。

武雄市図書館では、本の貸し出しだけでなく、カフェを運営したり、書籍、CDなどの販売を行ったりしている また、市立図書館では、全国初の試みを行っている。武雄市では、市立図書館を住民がいつでも気軽に利用できるようにするために、民間企業のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に運営を委託した。同社が展開する「代官山 蔦屋書店」のノウハウを活用し、今年4月、年中無休で開館できる市立図書館にリニューアルした。ここでは、図書館システムを刷新しただけでなく、CCCが運営する「T-ポイント制度」と連動し、図書館で本を借りた人が、ポイントをためることができるようにした。
また、図書管理システムとして、新たに富士通製の自動貸し出し機を設置。これによって、利用者がスピーディーに本を借りられるようになった。教育委員会文化・学習課の中野優氏は、「4月にリニューアルしてわずか3か月で、入館者数は昨年度の総数に達している。また、武雄市民以外の人でも本を貸し出せるようにしてあるので、市外からの入館者が増えている。地域の活性化につながっている」と語る。
さらに農業の分野では、「オープンデータシティ武雄の見える化とエコシステムによる農業活性化」が、6月に総務省の実証実験として採択された。事業に参加する複数の農家に対して、温度感知センサなどの機器を配備して、営農管理に関わるデータをクラウド上に収集して分析し、農作物を安定的に育成できるようにしたり、スマートフォンを活用した農業機器の遠隔操作によって、農業従事者の作業負担の軽減したりすることを目指す。
営業部農林課の原正之農政係長は、「農業は、武雄市の基幹産業の一つ。しかし、近年は農業生産が落ち込み、高齢化が進んでいる。農家の間で技術力にもかなりの違いがある。ITを活用して、農業従事者の能力の底上げを図って、安定的に所得を得られるようにしたい」と意気込んでいる。