毎年、夏の暑い時期、恒例の「岐阜サマー・サイエンススクール」が中津川市で開催される。今年で19回目を迎えるイベントで、中学2年生を対象に、岐阜県の生徒ばかりでなく全国から公募して70名の生徒を集め、3泊4日の合宿形式で集中的に自然科学の授業を行う。このアイデアは、中津川市出身で光通信技術研究の先駆者である末松安晴先生が20年も前から構想したものである。当時、先生は日本の科学教育に危機感を抱き、中学生の段階で自然科学に対する強い興味・関心を湧き立たせたいという思いから、このスクールを開講した。

　今年は、本田技研工業の二足歩行ロボット『アシモ』の開発者である重見聡史さんを迎え、その開発経緯を講演してもらったところ、中学生たちは夢中になって聴き入っていた。それ以外にも、情報・宇宙・生命分野の高名な先生方に登場してもらい、講義と実習を通して科学のパワーを伝授していただいた。実に贅沢な夏季合宿である。

　このスクールの卒業生は、その後、各方面で活躍している。なかでも、大学を卒業した後、中津川市に戻ってITベンチャーとして活躍している吉本龍司さんは出色である。彼はすでに小学生にしてパソコン少年であったが、岐阜サマー・サイエンススクールに参加した時の衝撃は大きかったようで、それは彼の生き方を支える要因になったようだ。事実、毎年このイベントにはOBサポーターとして参加して、中学生のアドバイザーとして活躍している。

　まだ若手の吉本さんだが、ITエンジニアとしての実力は驚異的で、現在オープンデータが騒がれ、しかし実際の成果はまだお寒い実情のなかで、彼が開発した「カーリル」は日本最大の図書館書籍検索サイトで、全国6000以上の図書館から書籍とその貸出状況を簡単に横断検索できるサービスとして特筆される。図書館を活用する読書好きの人には高く評価されるサービスである。これを中津川市からさりげなく発信しているところに彼らしさがある。

　末松先生から吉本さんに継承されるオープンマインドな知的精神と社会貢献をミッションとする生き方には、中津川市というローカル性がもつ歴史文化的雰囲気が関係しているのかもしれない。彼のような若手が多くの地方から続出すれば、日本の各地はきっとおもしろくなると思う。