データセンター(DC)の需要動向が目に見えるかたちで変わってきた。DC向け機器メーカーは、関西地区での引き合いが増えているといい、大手SIerも自らの今夏の首都圏における節電などのために西日本にあるDCの活用を急ピッチで進める。ところが、東京電力の原発事故の余波を受けた関西電力が、今夏の15%節電を要請する事態となり、頼みの関西地区の電力事情の雲行きが怪しくなってきた。情報システムの中枢を担うDCの退避先が定まらない異常事態の様相をみせている。 (ゼンフ・ミシャ、安藤章司)
退避先定まらぬ異常事態の恐れも
DC向けに強いネットワーク機器ベンダーのフォーステン・ネットワークスの林田直輝社長は、「金融系やメーカーなどの企業が関西で新しいDCをつくる動きは確実にある」と断言する。F5ネットワークスジャパンは、「当社の顧客であるゲームを提供する大手サービスプロバイダが、関西にバックアップ用のDCを新設することを決めた」(帆士敏博プロダクトマーケティングマネージャ)として、こちらも“非首都圏DC”の新設ブームを追い風として、DC向け機器需要の拡大に手応えを感じている。
西日本など“非首都圏”へDCを移す動きには、二つの狙いがある。一つは、自社内システム、または商品として展開するITサービスの基盤となるシステムを非首都圏のDCへ移すことによって、事業継続やDR対策を図ること。もう一つは、首都圏の節電への対応である。DC部門は今夏、前年同期比で0~10%のピーク時電力消費の節減を求められており、節電対策は待ったなし。首都圏DCはもともと数が多く、電力事情が悪化してからは、「ただでさえ、電力供給不安で悩むユーザー企業がサーバーをDCに持ち込むケースが増えている」(大手SIer幹部)だけに、放っておけば0%の節電どころか、逆に電力消費が増えてしまうことにもなりかねない。
情報サービス産業協会(JISA)の調べによれば、クラウドやアウトソーシングなど“所有から利用へ”が加速するなかで、DCの電力消費は直近で年率約13%の勢いで増えている。大手SIerのNTTデータは、節電対策の一環として、社内情報システムを含め、東京・大手町など都内DCにあるサーバーを大阪や名古屋のDCへ順次移設していく。サーバーの移設は、「山下(徹)社長からトップダウンで検討せよとの指示が来ている」(NTTデータの小林武博・基盤システム事業本部第二基盤サービス統括部長)と事情を話す。
ところが、定期検査中の原子力発電所が再起動できないことを理由として、6月10日、関西電力が今夏のピーク時電力の15%節電を要請する事態になった。九州電力も夏期の電力需給がひっ迫する見込みで、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響は全国に波及している。このままでは、十分なキャパシティをもったDCの退避先が定まらない事態が生じかねない。
さらに、課題もある。首都圏のDC需要に対応するため大手SIerやDC事業者は、2012年以降、大型DCを相次いで竣工する予定だ。震災前から進んでいる計画であり、ニーズが変わったからといって、すぐに変更できるものではない。あるDC運営ベンダー幹部は、「首都圏DCの需要が落ち込むのも困るし、ユーザー企業の事業継続・DRニーズを無視するわけにもいかない」と頭を抱える。DC運営のIDCフロンティアは、東日本地区で提供しているクラウドサービス「NOAH」に格納されているOSや構成情報などのデータのバックアップを、西日本地区のNOAHで行うサービスを6月下旬から順次始める。東西冗長化のサポートを拡充させることで顧客ニーズを掴むのが狙いだ。
IDCフロンティアの首都圏地区と北九州地区の広域バックアップの概念
前出のフォーステン・ネットワークスの林田社長は、「西日本にすでにDCをもつ企業/事業者は、DCの増設を推進している」と、設備投資が拡大している状況を指摘する。長期化の様相を見せる電力不安を受けて、ユーザー企業の事業継続/DRニーズは強まっていることから、全国にDCリソースを分散させる動きが、今後よりいっそう進むことが確実になってきた。
表層深層
電力事情の悪化は、データセンター(DC)に深刻な影響を与える。国内最高水準のDCの一つである富士通の館林システムセンターは、72時間稼働可能な非常用発電機を備えるものの、「さらに長期間にわたって(燃料の)石油を燃やし続けるのは、環境面での問題がある」(富士通の工藤義一常務)と、非常用発電機の限界を指摘する。富士通とクラウド基盤「Windows Azure」で提携関係にある米マイクロソフトのエリック・キッド・ジェネラルマネージャーは「クラウド要素技術の一つの仮想化は、節電効果が大きい」と、節電ニーズが高まる日本のDC事業者にアプローチをかける。
ITベンダーは首都圏の既存、あるいはこれから新設・増設するDCが売れなくなっては困るし、逆に売れすぎて電力不足になっても困るという板挟みに苦しむ。そこで注目を集めているのが東西バックアップシステムだ。大手SIerのTISのクラウドサービス基盤「T.E.O.S.」は、東京と大阪のDCを一体的に運営できる機構を開発。必要に応じてITリソースを融通できる仕組みを取り入れている。本文中で触れたIDCフロンティアの「NOAH」に関する広域バックアップサービスでは、首都圏と北九州のデータセンター間を10Gbpsの広帯域ネットワークで接続する。
有事に海外を含めた複数地域のDCでシステムを瞬時に再起動できる相互バックアップ体制が、今後のDC事業のカギを握る。(安藤章司)