ネットワーク構築やシステム構築などのICT(情報通信技術)事業を手がけるNECネッツエスアイは、サービス型ビジネスの拡大を進めている。金融ソリューション営業本部で部長として活躍している菅原俊典さんは、課ごとに提案を行うという従来の営業スタイルを打ち破り、課をまたいだ提案によって、サービス型ビジネスをかたちにしようとしている。身の丈198cm。ぐっと迫る存在感を発していて、「部下には怖い上司と思われる」と苦笑する菅原さんに、部長としての活動について語ってもらった。(構成/ゼンフ ミシャ)
[語る人]
NECネッツエスアイ 菅原俊典さん
●profile..........菅原 俊典(すがわら としのり)
1993年、大学を卒業後、NECネッツエスアイに入社。大手ゼネコン・サブコン向けの施設エンジニアリング事業の営業を担当。その後、通信キャリアにネットワークインフラを提案する活動などに携わる。2006年、金融向け営業の部隊に異動し、ICTプラットフォームの営業に従事。11年4月、生保・損保や証券会社を商談相手にする第二営業部の営業部長に就任した。
●所属..........NECネッツエスアイ
金融ソリューション営業本部
第二営業部長
●担当する商材.......... ICTプラットフォームを中核とするソリューション
●訪問するお客様.......... 生命保険会社、損害保険会社、証券会社
●掲げるミッション.......... サービス型ビジネスの拡大
●やり甲斐.......... チーム力の成長に挑むこと
●部下を率いるコツ.......... 仕事での喜怒哀楽をともにして、からだで表現する
●リードする部下.......... 23人
課をまたぐ提案を統括し 商談の機会を拡大
金融機関向けの営業は、当社で長い歴史をもつ部署だ。音声基盤などのICTインフラを、ずっと当社が提供しているお客様が多い。そういう歴史を誇りに思うこともあって、過去の実績に甘んじる傾向が根づいている。しかし、今、会社が重点的に取り組んでいるのは、サービス型提案を中心とする新しいビジネス領域の開拓だ。過去にこだわる風土をどう打ち破るのか──。私は日頃の活動で常に意識して、答えを追求している。
2011年、保険会社や証券会社をお客様とする第二営業部の部長に就任してから、私は「過去に縛られることなく、新しい提案にチャレンジしろ」と、口を酸っぱくして言い続けてきた。具体策として、当部署の四つの課からメンバーを集め、新しい提案について議論を交わすディスカッション会を設けている。これまでは、各課がそれぞれの担当商材をもって、課の狭い世界に閉ざされたかたちで提案を行ってきた。ディスカッション会でメンバー同士の意見交換を促し、課をまたいだ提案の実現に結びつけている。
ディスカッション会の成果は、商材の新しい組み合わせができ、お客様のニーズにより広範囲で対応できるようになったというかたちで現れた。そのおかげで、商談の機会が増えている。こうして、新しい提案が活発になっていることはうれしいが、一方で、上層部と現場の両方に対して責任をもつ立場の部長として、悩ましいところがある。従来型の提案に当てはめてつくられた会社のルールを重視するか、それとも、部下の斬新なアイデアを重んじるかのバランスをいかに取るかが悩みどころだ。
先日、商談の最終段階で当社ともう1社が残った案件で、部下から「コスト面や提案内容をこういうふうに変えることで、コンペに勝ちたい」との相談を受けた。部下のアイデアはすぐれたものだったが、利益に関して譲らない上層部は、はたしてコスト面での調整を承諾するのか。私は、難しい選択を迫られた。いろいろ考えた結果、今回は、必死になってすべてを一人で担当した部下の成長を支えたいと考えて、利幅が薄くてもOKを出してくれるよう、思い切って上司の役員を説得した。その結果、見事に受注。お客様から注文の知らせがきたとき、私も部下と手を取り合って喜んだ。
私は、受注したときの喜びやうまくいかなかったときのがっかり感などの感情を部下とともに表現することを大切にしている。喜怒哀楽を共有することで、チームの一体感を強めている。
[紙面のつづき]感情を記憶として残し、部下の成長基盤を築く
喜怒哀楽を表現することを重視するようになったのは、2007年7月に営業課長に就任したのがきっかけだった。初めて管理職に就き、部下をどのように指導していくかを考えたとき、昔、私が他社へ出向したときの上司が頭に思い浮かんだ。非常に的確な判断をする人だったが、淡々と数字だけをみる姿勢が私には無機質に映った。チームとしての一体感もなく、私はある種の孤独感のなかで仕事をしていた。
ドライな上司にはならない。昔の上司を思い出して、そう決心した。仕事の楽しさや達成感は、成果だけではなく、提案から受注に至るプロセスでも得ることが重要だ。日頃の仕事で感じたことが記憶と経験値になり、それによって、将来の成長に役立つ“引き出し”ができる。例えば、お客様に自分の斬新なアイデアを評価していただいてうれしかったとか、受注にはつながらなかったが、その業種のニーズがよくわかって勉強になったとか、案件ごとに抱く思いがあり、発見がある。これらは、将来、部下たちが管理職になったときに、下の者にアドバイスする材料になるはずだ。
日々の業務で喜怒哀楽を表現し、感情を記憶として残すことは、チームの一体感を強くするだけではなく、部下たちの成長の基盤を築くためにも大切だと確信している。だから、いくら仕事が忙しくて疲れているときでも、部下との“共感”を怠らないようにしている。
メンバーが「働きやすい」と思う環境をつくるために、もう一つ取り組んでいるのは、デスクを固定せずに、どこにいても効率よく仕事ができる環境を用意することだ。
これは営業部隊全体で進めているプロジェクトだが、八重洲や品川、渋谷などの都心部の主要な場所にレンタルオフィスを借りて、シンクライアントの環境をつくっている。例えば、午前中に渋谷のお客様を訪問し、午後は新宿でアポイントメントが入っているメンバーは、午前中の訪問を終えたら、飯田橋の本社に戻ることなく、渋谷のレンタルオフィスで仕事をしてそのまま新宿に行く、ということができるようになっている。シンクライアント端末はレンタルオフィスのロッカーに入っているので、すぐに仕事を始められる。効率よく仕事を進められる環境を整えることで部下たちの能力を引き出し、彼らの成長につなげたい。
ちなみに、私も部下たちから学ぶことがたくさんある。営業の経験は私のほうが上だが、最新の技術トレンドなどに関しては、部下たちのほうが詳しいことが多い。彼らの高い知識レベルに、毎回びっくりする。その知識やアイデアを素直に吸収して、自分の仕事力の向上につなげるよう、心がけている。

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