この連載では、「地方には育ちつつある“芽”がたくさんある」をテーマに、全国各地のIT産業の動きを紹介してきた。全国的にSI・受託ソフト開発のビジネスが停滞するなかで、各地のITプレーヤーは、自社パッケージの展開やOSSの活用など、独自の取り組みを推進して、地方IT産業に変革を起こそうとしている。シリーズ最終回は、各地のITキーパーソンを取材するなかで、とくに印象深かった言葉を紹介し、連載を締めくくる。(取材・文/真鍋武)
“死の谷”を乗り越えて初めて、製品展開に成功できる
――システムサポート 社長 小清水良次 氏
[『週刊BCN』2013年7月1日号/vol.1487 石川県(4)]
自社独自の商材を展開するには、開発から始まって、販売ルートを確保して確実に流通させるというように、実績をつくるまでに相当な時間がかかる。受託ビジネス中心のIT企業が成功を収めるまでには、赤字が続いたとしても推し進めるだけの体力と投資余力が求められる。システムサポートは、元請けの案件を増やす戦略をとって、自社商材を展開できるほどの体力と資金を獲得した。
従業員が以前よりも元気になって東京に帰ってくる
――Sansan 取締役 CWO(Chief Workstyle Officer) 角川素久 氏
[『週刊BCN』2013年7月15日号/vol.1489 徳島県(2)]
Sansanでは、徳島県神山町の古民家を改修し、サテライトオフィスとして活用。志願した従業員が、数週間から一か月程度、大自然に囲まれた環境のなかで、その古民家に住み込んで働く。満員電車の通勤に苛まれることもなく、従業員と一緒にご飯をつくって食べたり、地元の人とコミュニケーションをとったりして、豊かな暮らしを楽しみながら、仕事に励んでいる。
具体的な計画なしに、ICTの利活用が進むわけがない
――佐賀県 最高情報統括監 森本登志男 氏
[『週刊BCN』2013年8月12・19日号/vol.1493 佐賀県(2)]
「ICTの利活用推進」を謳いつつ、実際にはあまり実現できていない自治体は多い。その理由の一つとして、「誰が」「何を」「どうやって」進めていくのか、具体的な計画立案ができていないという実態がある。とくにITが本流ではない情報課以外の各課では、具体的な行動計画なしにはICTの利活用促進は難しい。佐賀県では、詳細を具体的に明示した行動計画を策定している。
企業の経営革新につなげるためのデータ分析が新たな活路となる
――佐銀コンピュータサービス 営業部部長 城島浩文 氏
[『週刊BCN』2013年9月2日号/vol.1495 佐賀県(4)]
地域で案件を獲得しようとしても、地場企業の大多数は、基幹系システムをすでに導入済みであることが多い。システムの導入を前提としたビジネスは、もはや時代遅れといえる。しかし、企業が長年かけて蓄積してきたデータは、まだほとんど活用されていないのが実情だ。佐賀県では地場ITベンダーが一丸となって、地域企業のデータ活用を支援する取り組みを進めていこうとしている。
「本当にうまくいくのか」と疑問視されることもあった
――岐阜県 情報産業課 情報産業係 主査 森達哉 氏
[『週刊BCN』2013年9月16日号/vol.1497 岐阜県(2)]
森達哉主査は、スマートフォンが普及しつつあった09年に、スマートフォン関連の人材育成や起業を促進するプロジェクトを推し進め、入居企業数が激減していたソフトピアの再生に結びつけた。前例のない取り組みには、賛成できないという声が大きくなりがちだが、リスクを背負いながらも、スマートフォンの市場は絶対に伸びると信じて、全国に先駆けて踏み出したことが実を結んだ。
新しいものは、提供を開始した瞬間に中古品となる
――GOCCO 取締役 森誠之 氏
[『週刊BCN』2013年9月23日号/vol.1498 岐阜県(3)]
スマートフォンアプリ開発を手がけるベンチャー企業は、近年増え続けており、新しい技術や発想が日々生み出されている。その陰で、一度は注目を浴びながらも、すぐに流行が去ってしまうものも少なくない。GOCCOでは、主力製品が落ち目になったときには、すぐに新たな製品を提供して、継続して収益源を確保できるようにしようとしている。
立ち行かなくなった際のリスクヘッジをしておく必要がある
――島根県 商工労働部 産業振興課 情報産業振興室 企画員 杉原健司 氏
[『週刊BCN』2013年10月14日号/vol.1501 島根県(2)]
島根県は、「Ruby」の先進地域としての地位を確立しており、首都圏などからの受託ソフト開発の案件が増えている。しかし、好調はいつまでも続くわけではない。そこで、現状に甘んじることなく、産学官が協力して、「Ruby」だけでなく、アジャイル開発や、クラウドを活用した「納品しない受託開発」のビジネスに積極的に取り組むことで、県内のIT産業の力を高めようとしている。
Rubyを公教育の現場で必須課目に
――テクノプロジェクト 社長 吉岡宏 氏
[『週刊BCN』2013年10月28日号/vol.1503 島根県(4)]
あまり知られていないことだが、2012年の新学習指導要領の改訂で、中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修科目に盛り込まれた。このことは、IT業界にとって大きなチャンスだ。例えば、島根県では、「Ruby」を公教育の現場で必須課目にして、将来のIT産業を担う人材を育成しようとしている。すでに松江市では、中学校の教育で試験的に「Ruby」の授業を行っている。
競合ではなく、“協合”の姿勢が必要だ
――ランテックソフトウェア 代表取締役 庄司裕一 氏
[『週刊BCN』2013年12月16日号/vol.1510 北九州市(3)]
日本は少子高齢化の時代にあって、内需の大幅な拡大は見込めない。北九州市のIT企業は、かつては隣の会社を蹴落としてでも自社が生き残るという姿勢でビジネスをしてきた。しかし、限られた市場のなかでお互いがしのぎを削るのでは、共存・共栄はあり得ない。現在は、お互いが協力し合う“協合”の姿勢をもって、商品・技術・顧客をIT企業間で共有する方向に動き出している。