お客様にシステムを提案するにあたって、いかに競合他社との差異を明確にして先方の心をつかむか。そのやり方について、上司と部下の意見が衝突することがある。そんなとき、自分の立場を主張せず、どちらのやり方が正しいかを冷静に判断して、部下の意見を採り入れることができるかどうかが、上司の度量の大きさだ。兼松エレクトロニクスグループのシステムインテグレータ(SIer)である日本オフィス・システム(NOS)で中堅・中小企業(SMB)向け営業を率いる長尾雅史さんは、部下たちが考えていることを重視して、競争が激しいなかで案件の獲得に結びつけている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/横関一浩)
[語る人]
日本オフィス・システム 長尾雅史さん
●profile..........長尾 雅史(ながお まさふみ)
1990年、大学卒業後、日本オフィス・システムに入社。中堅・中小企業(SMB)向け営業に携わる。サービス/ソリューションを含むIT全般を流通業や製造業などの顧客に提案。2006年に部長に就任。12年、ソリューション提案に特化した営業本部に配属され、2013年からSMB領域を再び担当する。
●所属..........東日本事業部
第二営業本部 第二営業部
部長
●担当する商材.......... 販売や会計のシステムなど、SMB向けの自社ソリューション
●訪問するお客様.......... 製造業を中心とするSMB企業
●掲げるミッション.......... 新しい提案で、売り上げが低調な製造業向けビジネスを活性化させること
●やり甲斐.......... 部下のスキルアップを実感すること
●部下を率いるコツ.......... 部下と頻繁に会話を交わして、客先のニーズを正確に理解できているかを確認する
●リードする部下.......... 5人
市場の変化に敏感なベテラン部長
製造業のお客様のデスクトップ環境をシンクライアント化する案件で、当社に注文していただく利点をどのように示すかについて、担当の部下と議論を繰り返した。当社は、デスクトップを仮想環境に移行する際にテストを行う独自の支援ツールをもっている。今回の案件では、競合他社も数社動いていたので、私は支援ツールをお客様に無償で提供して、価格面での優位性を前面に押し出すことによって案件を獲得しようと考えた。
ところが、部下の担当営業マンは強く反論した。「支援ツールこそが、NOSの最大のバリューだと思う。無償で提供するのはもったいない。逆にきちんとお金をいただくかたちで提供して、支援ツールを差異化要因にするべきではないか」──。部下はそんなふうに熱く語った。最終の提案は、私が考えた「価格重視」でいくか、それとも、部下が論じている「バリュー訴求」でいくべきか。私は、難しい判断を迫られた。
製造業のお客様はこれまで、確かにコスト削減を課題としてきて、IT投資もなるべく抑えたいという要望が多かった。しかし、最近は、コスト抑制だけではなく、IT活用による業務改善を重んじる傾向が顕著になっていることも無視できない。いろいろ考えた末、時代が価格より価値に変わってきたと判断し、部下の方針を採用して支援ツールを有料で提供する提案に決めた。そして、部下が言った通り、お客様は支援ツールをNOSの強みと高く評価して、当社への注文を決めていただいた。
私は1990年に当社に入社し、これまでのおよそ24年間で、ITを取り巻く市場環境のいろいろな変化を経験してきた。だからこそ、必ずしも自分の立場を主張するのではなく、自分よりも現場に近い部下はどんなことを考えているかに耳を傾け、彼らの意見を採り入れることを、マネージャーとしての日頃の活動で実践している。新しい提案に挑むことによって、時代のニーズに応え、ここ数年の間、売り上げが低調な製造業のSMB向けビジネスの活性化につなげたいと考えている。
部下を管理するうえで欠かせないのは、頑張って受注にこぎ着けたメンバーを賞賛することだ。今回のシンクライアント化の案件でも、「提案の内容がよくできた」と、私は部下を全員の前でほめた。なぜ受注につながったかのサクセスストーリーを語らせ、今後の提案活動に関してヒントを得ることができるよう、チームで情報を共有することにした。
[紙面のつづき]携帯電話で部下の動きをリアルタイムにチェック
当社はこれまで12月が年度末だったので、2月に入ったこの時期は、すでに新年度が始まって、設定した目標の達成に向けて動いている時期。しかし、2012年11月に兼松エレクトロニクス(KEL)の連結子会社になったことで、今年度から期末を親会社に合わせて3月に変更した。だから、今年度は15か月になる。現在、期末に向けて部下たちを走らせて、急ピッチで商談を詰めると同時に、新年度のビジネス計画の策定を進めているところだ。
新年度、力を入れようと考えているのは、スマートフォンなど、モバイル端末の活用に伴うセキュリティリスクを払拭する切り口でソリューションを提案すること。さらには、お客様に安心感を与えるアフターフォローを充実させることだ。
部下たちが常にお客様のニーズを把握し、それに適した提案ができているかを把握するために、メールではなく、直接会話することを徹底している。メールでは、失敗したことやうまくいかなかったことをなかなか報告してくれないからだ。
私を含めて、メンバーは外出が多く、社内でコミュニケーションを取る時間は限られているので、携帯電話を駆使している。部下のその日のスケジュールを頭に入れて、商談が終わった頃を見計らって電話をかける。成果を聞きながら、部下はどんなことを考え、次にどんな手を打つのかを把握する。こうして直接会話することで、いつもより3か月長い今年度の目標をクリアして、来期もどんどん案件を獲得していきたい。

日本オフィス・システムのロゴ「NOS」を施した革製の手帳カバー。「ずっと昔に会社で支給されたもの。毎年、中身を変えながら、長年愛用している」そうだ。