「営業力強化のために研修をお願いしたい」。このような相談がくると、私は必ず次のような質問をさせていただく。「営業力を強化したいのですか、それとも業績を伸ばしたいのですか?」と。するとほとんどの方からは、「もちろん、業績を伸ばしたい」との答えが返ってくる。「営業力を強化したい」と「業績を伸ばしたい」は、似て非なるものだ。前者には、営業担当個々人のスキルを向上させれば業績はついてくるという思い込みがある。
営業担当者が、提案書作成やプレゼンの能力、あるいは交渉術を磨いたからといって、それだけで業績は伸びるだろうか。「営業力(=営業スキル)を強化すれば業績が伸びる」という思い込みは、業績を営業担当個々人の能力に頼ろうとすることであり、彼らの自助努力に頼る精神論に過ぎない。これは、経営者や管理者は、自らの責任を放棄する都合のいい思考停止のキーワードだともいえる。
業績を伸ばしたいのであれば、「売れる商材」「売れる売り方」「営業の意欲を高める施策」が不可欠となる。「売れる商材」とは、お客様が魅力を感じ、ぜひとも手に入れたいと思わせるサービスや製品を用意すること。「売れる売り方」とは、広告や宣伝、展示会やイベント、ソーシャル・メディアを活用したファンづくり、魅力を感じさせるデモや確実に受注を取るための営業活動の手順を整備すること。「営業の意欲を高める施策」とは、評価制度や営業支援体制の整備だ。一般に営業担当者の業績は売り上げと利益で評価される。しかし、クラウドを活用したサービス・ビジネスでは、短期的には売り上げも利益も上がらない。これを一致させる評価制度が必要だ。もし、売りたい商材と評価の基準が不一致ならば、現場の士気は高まらない。また、常に営業活動の状況を関係者が共有でき、何かあったら相談できる環境を整えておくことも大切だろう。みんな同じ方向に向かっているという意識を共有できることこそ、モチベーションを高める原動力だ。
営業スキルの強化に意味がないと申し上げるつもりは毛頭ないが、三つの取り組みをないがしろにして、営業担当者を叱咤激励し勉強を義務づけても、業績にはつながらない。営業担当者の自発性を引き出してこそ、学びの機会は実践能力としてカラダに染み込んでゆく。経営者や管理者の努力と営業スキルの強化は、一体で取り組むべきだ。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。