毎日、加藤大輔さんが社内外から受信するメールの数は「軽く1000通を超える」。自分が社内メンバーに送った急用のメールがスパムフィルタに引っかかって相手に届かず、顧客対応が遅くなったという事故も過去にはあった。そんな経験から学んだのは、対面のコミュニケーションの徹底だった。加藤さんは、セキュリティ事業を手がけるカスペルスキーでウイルス検索エンジンのOEM提供を担当するアライアンス部のリーダー。対面重視をポリシーに掲げ、社内連携を密にして、売り上げの拡大を目指している。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/津島隆雄)
[語る人]
カスペルスキー 加藤大輔さん
●profile..........加藤 大輔(かとう だいすけ)
ITメーカーで開発と営業を担当するセールスエンジニアを務めた後、2012年10月にカスペルスキーに入社。セールスエンジニアとして、ウイルス検索エンジンの法人向け提案に携わる。14年1月、データセンター運営会社やサービスプロバイダへのOEM提供を担当するアライアンス部が新設されたのを機に、同部の部長に就任した。
●所属..........法人営業本部
アライアンス部
部長
●担当する商材.......... ウイルスの検索エンジン
●訪問するお客様.......... データセンター運営会社やサービスプロバイダのほかに、販売パートナーであるディストリビュータ
●掲げるミッション.......... 客先を増やし、OEM事業の売上比率で日本法人がNo.1の実績を維持すること
●やり甲斐.......... 「受注」することによって、ウイルス検索エンジンの技術的な優位性を社会に評価してもらうこと
●メンバーを率いるコツ.......... 対面のコミュニケーションで情報を正確に伝え合う
●リードするメンバー.......... アライアンス部で1人、セールスエンジニア部隊で3人
独立したOEM営業部隊 他部門との連携を密に
少し泥臭いと思われるかもしれないが、私は部下や社内メンバーに情報を伝えるときには、必ず本人の席に行って対面で話すように心がけている。メールは便利なツールではあるが、毎日たくさん届くので、受信者が内容の重要性に気づかなかったり、対応を後回しにしたりすることがあるからだ。その点、フェース・トゥ・フェースで会話すると、その場で課題を明確にして一緒に解決策を練ることができる。だから私は対面重視をポリシーに掲げている。
昔からそうだったかといえば、そうではない。現在の仕事に就いた当初は、メールを情報伝達ツールとして大いに活用した。しかし、ある事故をきっかけに、対面で話すスタイルに切り替えた。
その事故というのは、緊急要件への対応を社内メンバーに依頼したメールがスパムフィルタに引っかかって、相手に届かなかったというアクシデントだ。お客様から私のもとに「いつになったら対応してくれるつもりか」とお叱りの連絡が入り、部下に確認したら「加藤さんのメールが来ていない」とのことだった。この痛い経験を教訓として、メールでのやり取りを必要最少限に抑え、社内メンバーと直接話して、情報を正確に伝え合うことができているかどうか、その場で確認しなければならない、と胸に刻んだ。
私は、インターネットイニシアティブ(IIJ)などの大手データセンター運営会社をはじめ、セキュリティサービスを提供する企業に当社のウイルス検索エンジンを提案するOEM営業のチームを率いている。昨年までは、セールスエンジニア部隊に所属して提案活動をしてきたが、ビジネスを拡大するには独立の部署が必要と考えて、上司にチームの新設を訴えた。そして今年1月にアライアンス部が立ち上がり、私は部長に就任した。部下は現在一人だが、マネージャーとして腕が試されるのは、私たちが獲った案件の実装を手がけるセールスエンジニア部隊との連携だ。
そのカギを握るのは、彼らに対等に接して、一緒に仕事をするための環境をつくることだ。今年、アライアンス部が設立され、OEM営業の社内でのポジションが強くなった。しかも、現在は二人体制で数件の大型案件を獲得しているので、一人あたりの売り上げ・利益への貢献度が高い。だからといって、変な優越感を抱くのではなく、お互いの顔を見ながらセールスエンジニア部隊のメンバーと話して、情報共有の徹底に努めている。
[紙面のつづき]「うそをつかない」を胸に刻んで「正当な対価」を求める
私が率いるアライアンス部が担当しているのは、データセンター(DC)運営会社やサービスプロバイダに対するウイルス検索エンジンのOEM提供だ。とくにDC運営会社は、いま、アマゾンをはじめ、低価格を武器にする外資勢と非常に激しい価格競争を繰り広げている。この影響で、サービス利用料を値下げするために、当社に値引きを強く求めるケースが増えている。
私はお客様からの値引き交渉を受けて、社内で価格調整を行うコーディネート役になっている。基本的な姿勢として大切にしているのは、高品質のウイルス検索エンジンの提供に対して、正当な対価を払っていただくということだ。当社はOEMビジネスの拡大を掲げ、お客様の要望にきめ細かく対応しているが、当然のことながら利益は確保しなければならない。だから価格に関しては、譲れないものは譲れない。値下げの要求があまりに厳しい場合、お客様に当社の立場を正直に伝えて、「今回は縁がなかった」と案件の打ち切りを考えることもある。
こうした仕事への姿勢に大きな影響を与えたのは、いまの上司だ。社内でも社外でも、「絶対にうそをつかない」という行動規範をもっている人で、私はこれにならって社内外に対して「常に正直」を心がけている。

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