ドットコムバブルの崩壊で窮地に

　会社勤めに馴染めず、1999年に25歳で独立したフリーエンジニアの池田成樹は、ウェブ全盛期に独立したことが幸いして、順調な滑り出しだったそうだ。それが、ドットコムバブルの崩壊をきっかけに一変してしまった。企業がウェブサイトを開設することはあたりまえになり、ウェブ系システムを自社で運用するのが一般的になって、様相は大きく変わった。「立場の弱いフリーエンジニアは、一気に苦しい立場になり、仕事が激減した」と、池田は当時を振り返る。

　池田は、ソフトを開発するだけでは生活できないと思った。その彼が着眼したのが、書籍の執筆だった。ソフト開発者を志す若い技術者向けの「ハウツー本」を出せば売れるのではないかと考えて、出版社に勤める知人の編集者に相談し、「試験的に出版した書籍がそこそこ売れた」という。この時点から、書籍の執筆が池田のメインビジネスになり、「一時は書籍の執筆だけで食える」状況になった。これまで10冊以上の書籍を出版している。

　しかし、インターネットの普及が書籍出版の前に立ちはだかった。技術情報が無料で公開されて、書籍が売れなくなったのだ。「同じテーマの本を書いても、発行部数は10年前の10分の1ほど。新たなビジネスに踏み出さなければ、この先は食っていけないだろう」という危機感を滲ませる。

　池田は、また新たなビジネスに踏みだそうとしている。それが 「講師ビジネス」だ。自身がもっているスキルを書籍ではなく、リアルな場で若い開発者に伝えることを事業にしようとしている。池田のプランがユニークなところは、日本だけでなく、まだ技術スキルに乏しい発展途上国で講師を務めようとしている点にある。（つづく）［文中敬称略］