語る人
中村 稔 氏
情報処理推進機構(IPA)
参事 戦略企画部長
プロフィール 1986年、東京大学法学部卒業。同年4月、通商産業省入省。機械情報産業局情報処理システム開発課総括係長、在ポーランド日本国大使館一等書記官、石油公団総務部総務課長、経済産業省通商政策 局中東アフリカ室長・内閣官房イラク復興支援推進室参事官、兵庫県産業労働部長、資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課長などを経て、2013年7月から現職。
「optimism」への転換が新時代で生き残るカギ
IPAに着任してすぐに、米国のシリコンバレーに行ってきたが、ITベンチャーが斬新なビジネスをどんどん立ち上げていて、現地はゴールドラッシュのような状況になっている。LinkedInのような、サービス業とITの融合のようなビジネスがここ数年で隆盛してきたのはその象徴といえる。しかし、日本のITベンダーからはこうした動きがなかなか出てこない。これは、前号でお話ししたように、新しいビジネスのアイデアを出し、具現化できる人材に投資していないからなのだが、シリコンバレーに優秀な人材を送り込み続けているスタンフォード大学の研究員には、「日米の文化の違いが大きく影響しているのではないか」と指摘された。
飽和しつつある市場から抜け出そうと思えば、リスクを取って新しい一歩を踏み出すしかない。日本人は生来の生真面目さが災いしてか、新しいアイデアであっても、リスクを詳細に検討するあまり、結果的につぶしてしまうことが多い。しかし、IT産業は新しいアイデアの実現にチャレンジしてこそ成長できる産業。「無事是名馬」はことITの世界では通用しない。シリコンバレーのインテル博物館には、創業者の一人であるロバート・ノイスの写真の上に「optimism(楽天主義)」という言葉が掲げられている。これこそが、日本のITベンダーに今必要な哲学だと思う。まずやってみるという感覚が必要ではないか。
ITがレガシーな産業をけん引 日本経済成長の起爆剤に
さらに問題なのは、大手を中心にいまだに「囲い込み」をやっていて、オープンイノベーションが育たない土壌であり続けているということ。国際競争で勝とうと思ったら、オープンイノベーションを進めるしかない。頭ではみんなわかっていても、いったん染みついた体質をなかなか変えることができないのだろう。しかし、「ゆでガエル」になってからでは遅いということを認識してほしい。
戦後の復興施策が一段目のロケットになり、日本経済は高度成長を実現した。しかし、当時のビジネスモデルはすでに通用しなくなっている。optimismへの転換とオープンイノベーションの推進という二点が現実のものになれば、二段目のロケットに火がつくはずだ。IT産業には、レガシーな産業を引っ張り、日本経済そのものを復活・成長させる起爆剤としての役割が課せられている。(談)(本多和幸)