少し先をいく技術を提供する力

　ソフト開発事業から業容を広げ、一人でエバンジェリスト業を開始した中津川篤司（36歳）。「商品をわかりやすく伝える」という簡単なようで難しい仕事を、顧客のマーケッターに代わって請け負う。実際にニーズが顕在化して始めたビジネスではない。中津川が、マーケッターが抱える悩みを想像して始めた「本当に需要があるかどうかわからなかった」サービスだが、これがヒットに結びついた。大手通信事業者や大手SIerなど、今では5社ほどのITベンダーのエバンジェリストを務める。自身が運営するブログで記事を発信したり、セミナー・イベントで講演したりして、顧客の製品をアピールしている。

　軌道に乗ったエバンジェリスト業。順調にスタートしたからこそ生まれた悩みもある。ソフト開発業と同様に「一人の壁」である。「自分一人でサービスを提供できる顧客の数は限られている。多くの社員を抱えるつもりはないが、私だけでは対応できない発注があった場合に備えて、フリーエンジニアとバーチャルチームを結成して対応するような枠組みをつくっておく必要性は感じている」と、仲間集めに関心をもち始めた。

　中津川は言う。「個人事業主として働くために必要なことは、エンジニアでもエバンジェリストでも同じで、技術力に尽きる。少し先をいくテクノロジーを常にチェックしてニーズがありそうな技術を自分のものにし、顧客に提供できるかどうか。技術力さえあれば、開発だけではない仕事もできるし、自然と顧客が集まる。そういう力をもった人材は意外に少ない」という。

　「フリーエンジニアとして活動したいと思っている人は、企業に勤めている間に、技術力を高める活動を業務以外でいかにできるか」だとアドバイスする。（おわり）［文中敬称略］