ITの進化と現行の法律に大きなギャップ
ビッグデータ利活用の大きな障害となっている、パーソナルデータの取り扱いについても、この1年で具体的な進展がみられた。
個人情報保護法が成立したのは2003年。当然ながら、ビッグデータを利活用する世の中になることを想定して制定された法律ではない。そのため、現在のIT技術で収集できる多様な情報、例えばJR東日本のSuicaのような交通系ICカードの仕組みなどから収集できる個人の行動や状態に関するパーソナルデータを、どの程度自由に利活用できるのかについて、現行法では規定していない。そんな事情で、法的なグレーゾーンは年々拡大している。
政府は、ITの進化がもたらす功罪を分析している。消費者側は自らの個人情報が悪用されてしまうのではないかという不安を抱き、一方で事業者側はそうした消費者の不安から生じる社会的な批判を恐れて、新しいビジネスをつくり出すために個人情報を活用することを躊躇している。この事業者側の心理を「利活用の壁」と名づけて、消費者の安心を担保しながらこれを取り払うために、どんな法改正や制度改正をすべきかについて議論してきた。いわば、事業者側が安心してパーソナルデータを利活用するためのルールを明文化することで、実質的な規制緩和を行おうとしたわけだ。
大綱を定めて来年の通常国会で法改正
その成果が、今年6月に公表された「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」だ。来年1月にスタートする通常国会で、これをもとにした法改正を行うというスケジュールも確定した。「世界最先端IT国家創造宣言」の改定にも、このロードマップは盛り込まれている。
これまで、IT産業を育成する立場の経済産業省などは、本人の同意なしにパーソナルデータを第三者に提供する「オプトアウト」を実現したいと考えていて、規制緩和の方向で法改正を試みてきた。しかし、法務省や総務省などは慎重な姿勢をなかなか崩さず、省庁間の綱引きが続いていた。この膠着状態を解いたのが世界最先端IT国家創造宣言であり、司令塔である内閣官房IT総合戦略室が議論をリードしたこともあって、法改正の道筋が定まった。
次号では、法改正によって何を実現しようとしているのか、詳しくみていく。(本多和幸)