一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は、1985年から主にソフトウェアの著作権侵害対策支援と普及啓発活動に取り組んできた。
現に発生している著作権侵害を食い止めるべく、海賊版の販売や、ウェブサイトやファイル共有ソフト悪用による無許諾アップロードなどの著作権侵害などにおける刑事事件を含む対策の支援を行っているが、著作権が尊重される社会を実現するためには、こういった対策と並んで、著作権侵害を防止する技術の活用や教育、主として学校教育も重要である。しかし、コンピュータソフトに限らず、現在のコンテンツのほとんどはデジタル化されており、それらにかかわる権利侵害は著作権だけでカバーすることができない場合があるため、著作権だけを論じていると木を見て森を見ない議論になりかねない状況が生まれている。
例えば、自分で誰かを撮影した写真をネットに公開する行為は、撮影者が著作者なので著作権法上の問題はないが、被写体となった人物に無断で公表したとなると肖像権を侵害することになる。あるいは、ブログを書くのは他人の著作権を侵害しない限り問題ないが、内容によっては名誉毀損や侮辱に該当する場合もある。
このような状況下において、ACCSでは情報社会で適切な活動を行うための基礎となる思想と態度である「情報モラル」教育の重要性を10年以上前から訴え、各地の学校で講演を行ってきた。情報モラルのカバーする範囲は著作権のみならず、知的財産権や肖像権などの法(ルール)とともに、当時ネチケットといわれたモラルやマナー、情報セキュリティや情報リテラシーなども含まれる。
情報モラルの重要性は教育現場にとどまらない。昨今の企業における情報流出や社員のSNSの取り扱いミスによる炎上騒ぎ、さらには新聞記事や地図のコピーの利用とか、ビジネスソフトの違法コピーなどの問題は、情報モラル的観点に基づく社員教育や対策が不可欠といえる。一方で、社内で保有する「情報」の有効活用という観点でも著作権のみを論じるのは不十分であろう。社内で保有する「情報」を有効活用するには、著作権やその他の法制度や商慣習も考慮しなければならない。著作権のみではなく、「情報」全体を俯瞰する力が必要なのだ。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。