売るモノが変わる。ポストSIビジネスを考える時、この変化の本質に向き合う必要がある。1970年代から80年代の日本の労働生産性は世界一位だった。この頃は、「いいモノをつくって売る」ことがビジネスを成長させる原動力。そのために、すぐれた技術をもつ企業や人間力による機能や品質のつくり込みが求められた。日本はこの点において、世界で抜きん出た存在だった。
しかし、いいモノがつくれるようになれば、それを安くつくって市場を拡げようとのモチベーションが働く。その結果、安い労働力を求めて新興国に生産拠点を移す動きが加速する。同時に自動化も推進し、生産性の向上に加え、品質や機能を機械によって底上げした。その結果、コモディティ化が進み、安さだけでは成長を促すことができなくなった。
そこで、顧客ごとに個別最適な組みあわせを提供する「インテグレーション」の視点が注目されるようになった。商品単体では差異化は難しくても、個別最適化された製品やサービスを組みあわせて提供することで差異化を図り、成長に結びつけようという動きだ。しかし、ここに来てこの「インテグレーション」も揺らぎ始めている。
これまでのいずれもが「顧客価値を実現する手段」を提供するものだった。顧客は本来、その手段によって実現する価値を手に入れたい。手段を手に入れなければ価値を手に入れられなかった。しかし、クラウドを使えば、コンピュータという手段を手に入れなくてもアプリケーションという価値を手に入れることができる。Uberという個人所有の自動車による配車サービスは、タクシーという手段を所有することなく「自動車で人を目的地に移送する」というサービスを実現している。
つまり、「顧客価値」を実現する手段を所有しなくても、「顧客価値」そのものを提供することが可能になりつつる。この新しいパラダイムはクラウドやインターネット、IoTなどのテクノロジーに支えられている。この現実にSIビジネスも向き合わなければならない。
モノの販売や工数のビジネスがなくなることはない。しかし、モノや工数を手に入れなくても顧客価値を直接手に入れられるようになれば、そちらに需要がシフトすることは当然のこと。まさにそんな時代がやってきたのだ。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。