「人は動物である以上必ず死にます。どんな人生を送りたいですか?」。ウェブサーブのホームページに掲載されている経営の考え方の書き出しである。そして、「組織プロフィール」「会社が提供する組織とは」「個人に要求されるもの」など、14の項目で経営理念を紹介している。どれも長文で、かなりの力作だ。ウェブサーブでは、入社希望者にまずこの経営理念を読んでもらっている。「経営理念からぶれた人が入社しても辞めてしまう」と、鈴木孝裕・代表取締役。人材が生命線である。(取材・文/畔上文昭)
元請けしかやらない

鈴木孝裕
代表取締役 ウェブサーブは1996年3月の創業以来、元請けの受託開発にこだわってきた。「プライドがあったので」と、鈴木代表取締役はその理由を語る。中部地区のSIerは多くが派遣事業を行っていることもあり、元請けにこだわる鈴木代表取締役に対し、「すぐに100人規模の会社になる」とアドバイスする経営者仲間もいたという。
「他社で働くようでは当社に入った意味がない。しかも、派遣は上流の仕事ができない。上流ができなければ単価が上がらず、ノウハウが残らない。経営の面ではいいが、健全とはいえない」と考え、鈴木代表取締役は派遣業には参入しなかった。
いくらプライドがあっても、開発案件を獲得できなければ経営は成り立たない。しかも、鈴木代表取締役にシステム開発の経験はなかった。「やっていたのは電子回路の設計など。ニーズはあったが、狭くて深い世界で広がりがなかった。その点、当時に大ブームとなったWindowsなら、浅く広いので、顧客も多いはず。経験はないが、どの仕事でも段取りなどは共通なので、1年で何とかなるだろう」と考えたのが、起業の理由である。
インターネットの普及期でもあり、起業のタイミングがよかった。ホームページ制作の案件がくるようになり、それをきっかけに事業を広げていった。
中小企業に営業担当者は不要
元請けにこだわるには、営業力が欠かせない。「中小企業の経営戦略は、営業力をもつこと。これしかない」と鈴木代表取締役は断言する。しかし、ウェブサーブに営業担当者はいない。かつては、営業担当者を置いたこともあったが、うまく機能しなかったという。
「派遣事業の場合は、“エンジニアが不足していませんか”と御用聞きをやるだけだから比較的簡単にできる。元請け案件の場合は案件獲得にノウハウが必要なため、営業担当者が会社を支えているのは自分という意識が強くなり、いずれ経営側のいうことを聞かなくなってしまう」。現在では、鈴木代表取締役が新規開拓の営業を担当している。
エンジニアの採用にもこだわっている。「現在はIT業界が人材不足なので、簡単に入れるだろうと、軽く考えて応募してくる人がいる。しかし、過去の経験からすると、軽い気持ちの人はすぐにやめてしまう。当社の事業を理解し、企業理念と価値観を共有できる人でなければ続かない」。そこで、まずはウェブサーブのホームページで企業理念をしっかり読んでもらい、納得してから応募するというステップを求めている。
パッケージ事業を100%に
ウェブサーブの受託開発事業は順調で、2年前に人件費の単価を上げたが、既存顧客はすんなりと受け入れたという。「競合他社に比べて、当社の人件費が安かっただけ」と謙遜するが、実績があってこその結果である。しかし、受託開発をいつまでも続けようとは考えていない。
受託開発事業の売り上げは、ウェブサーブ全体の95%を占める。残りの5%はパッケージ製品の売り上げ。「受託開発は人数分しか売り上げにならない。いずれ成長が止まる。そこをパッケージで補いたい」。
ウェブサーブは現在、同社が開発した就業管理パッケージ「BIZWORK+」に注力している。「就業管理はプレーヤーが多いので、勝ち抜くのが簡単ではないことは承知している。ただ、BIZWORK+は給与システムと連動できたり、出勤状況にあわせて昼食の弁当を注文したりするなどの特徴をもっている。大手の製品と比較して価格競争力もある」と、鈴木代表取締役は自信をもっている。
また、就業管理パッケージに注力することで、エンジニアは就業管理に関する深い業務知識が得られる。「エンジニアが業務知識を身につけるのは簡単ではないため、就業管理に特化する。それによって、エンジニアは深い業務知識が得られるので、ユーザー企業の特定要件に対応しやすくなる。昔は“何でもできる”ことをアピールしていたが、何でもできるSIerを探している企業は少ない。やはり、得意分野は必要」と、鈴木代表取締役。いずれはパッケージの売り上げを100%にしたいとしている。