サンノアはエンドユーザーからの直接的な請負契約の割合を着々と増やしている。客先常駐型のシステムエンジニアリングサービス事業でスタートした同社だが、「客先常駐では技術者同士のノウハウが共有しにくく、ややもすれば技術者の寿命を縮めてしまう」(吉田智和・代表取締役)危機感を常に抱いていた。そこで、まずは同業者から一括請け負いで仕事を持ち帰るところからスタートし、直近ではエンドユーザーから直接請け負いの受注を獲得するに至っている。(取材・文/安藤章司)
Company Data会社名 サンノア
所在地 東京都渋谷区
資本金 300万円
創業 2006年
社員数 7人
事業概要 サンノアは、業務アプリケーションから組み込みソフトまで幅広くビジネスを手がけている。吉田智和代表取締役は、業界団体の日本情報サービスイノベーションパートナー協会(JASIPA)理事として、エンジニアリングサービスの研究にも意欲的に取り組む。
URL:http://www.sunnoah.co.jp/ エンド案件受注に辛抱強く取り組む

吉田智和
代表取締役 サンノアが最初に受注したエンドユーザー案件は、アミューズメント機器への組み込みソフトだった。業務アプリケーションの開発がほとんどを占めていたサンノアは、組み込みソフトの経験がなかったが、「エンドユーザーから注文がとれる絶好のチャンス」(吉田代表取締役)と考え、ユーザーから打診がきてからすぐに準備に着手。都合、1年近くの時間をかけて、組み込みソフトを開発する人材と環境を整え、2015年5月、同社にとって初めてのエンドユーザーからの直接受注を果たしている。
06年の創業から足かけ10年、直接エンドユーザーと取り引きできるまで成長してきた同社だが、起業当初は吉田代表取締役自身も、客先に常駐する状態であった。経営トップが客先に常駐していては、会社経営もままならないため、なんとか自社に持ち帰る仕事に切り替えようと模索。2~3年前に同業者から“持ち帰り”の仕事を受注し、客先常駐一本の事業形態から脱している。今回の組み込みソフトのエンドユーザーからの案件受注も、一括請け負いに向けた粘り強い取り組みが効を奏した結果といっても過言ではない。
起業後は“経営者目線”を強く意識
有志とともに起業する前、吉田代表取締役は派遣社員として客先での開発業務に明け暮れていた。開発現場には複数の派遣会社から多くの派遣社員が集まり、プロジェクトリーダーは案件をかけ持ちすることが少なくなかった。集められた派遣社員のスキルセットのバラツキも目立つ。巨大な多重請け負い構造のなかで、「今、自分が何階層目にいるのかもわからない」こともあった。
プロジェクトがうまくいっているうちはいいが、一旦、躓くと徹夜のデスマーチが始まる。「20代の頃は、終電で帰るのがあたりまえ、休日出勤もして、おまけに徹夜の作業もしていた」。若くて体力があるうちはまだいいが、年を取るとそうした力仕事は厳しくなる。人を集める側も、こうした点を考慮して暗にエンジニアの年齢制限を設けることもあった。客先常駐型のシステムエンジニアリングサービスの問題点に早くから気づき、「これではダメだ」という危機感が、吉田代表取締役をサンノア起業へと突き動かしていく。
起業当初は、正直、起業前と変わららない常駐仕事がほとんどを占めたが、吉田代表取締役の意識は大きく変わっていた。発注する側は少しでも安く、よいサービスを調達したい。一方、受注する側は適正利益を確保するとともに、あわよくば新しい技術も習得したいと考える。起業後は、一人の経営者として発注者、受注者の駆け引きに注意が向くようになり、「会社としてどのようなスキルセットをもつべきなのかの“経営者としての視点”を常に意識するようになった」と話す。
組織として競争できる体制をつくる
中堅・中小のSIerが、エンドユーザーから直接案件を受注するのは、非常にハードルが高い。ある程度、売上規模があり、IT投資の余力があるユーザー企業には、すでにお抱えのSIerがついていることが多い。中小規模以下のユーザーはそもそもIT投資の余力が乏しい。一括請け負いしようとすれば、どうしても同業者からの請け負い──つまり、下請けにならざるを得ないことが多いのだ。サンノアも、こうした“同業者間での請け負い”をこなしてきたが、多重請け負いのピラミッド構造の中位以下の同業者から案件を請け負っても、「採算が合うことは多くない」と振り返る。
同業者間取引でも、元請けに近いところから受注ができれば、エンドーユーザー案件と同様、それなりの価格交渉や利幅が見込める。だが、そのためには競争力の源泉となる自社固有の技術を保有したり、独自のサービスを立ち上げることが欠かせない。一足飛びには難しくても「一歩一歩着実に歩んでいく」(吉田代表取締役)ことは可能だ。直近では、モバイル向けアプリ開発に強みをもつMinatoと協業するなど、同業者との連携も始めている。今後も引き続き、元請けやエンドユーザーからの直接受注の割合を増やしていくと同時に、事業企画を担当する部門や研究開発をする部門といった競争力を生みだしていく組織づくり、人材集めに力を入れることで、業容拡大を加速していく方針だ。